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ブログ in ドラマ 第4回作品



すっかり落ち込み、我を忘れてしまった柊子が表参道を歩いていると、偶然
にも杏二と出会った・・・・
一方、柊子の同僚、千沙は、柊子の予約を取り計らった交換条件で葵親子と
ダブルデートをすることとなっていた。




――――――――――――――― 最終話 ―――――――――――――


窓の外には、夜のレインボーブリッジが見えていた。

片桐 秀俊、葵の親子と、葵のボーイフレンドの少年、そして村田 千沙の4
人は、お台場にあるファミレスで夕食のテーブルを囲んでいた。
窓際の4人掛けの席に、秀俊と葵の彼氏、葵と千沙がそれぞれテーブルを挟
んで並んで座っていた。
女性陣の二人は、にこやかに食事をしていたが、男性陣の二人は、どことなく
緊張したような面持ちで静かにしていた。
「ねえ、二人共、なに神妙な顔してんのよ?」
と、葵が正面に座っている男性陣に向かって言った。
「そうだよ二人共、せっかくこんな見晴らしのいい席に座れたのに。」
「ね、そうですよね、千沙さん。」
「ねえ。」
葵と千沙からの攻撃に、男性陣はまさしく“タジタジ”といった風だった。
そんな葵を見ながら、父親である秀俊は、
― わが娘ながら、いつの間にこんなに逞しくなったんだ?
などと、考えていた。



杏二と柊子の二人は、十番ラーメンの店内にいた。
二人は、店の隅で小さなテーブルを挟んで差し向かいに座っていた。
柊子はまだ、ついさっきまで涙をながしながら表参道を歩いていたのが分かる
ような、そんな顔をしていた。
「あ、ごめんね、こんなトコで。」
「・・あ、・・いえ・・・」
そこへ、店主が二人の頼んだラーメンを運んでやって来た。
「悪かったね“こんなトコ”で。」
そう、冗談ぽく言いながら店主は、二人の前にラーメンを置いていった。
「そういう事は、聞こえてても聞こえないふりするもんだろ・・」
杏二は、そんな店主にブツブツと文句を言い返す。
それでも、気を取り直して、
「さ、喰おう。」
と、割り箸を渡しながら柊子に言った。
「う、うん。」
二人は、湯気の立ち上るラーメンを食べ始めた。


「それじゃあ、僕は、ココで。 今日は、ありがとうございました。」
葵の彼氏の少年は、新橋の駅まで来ると、そう言って秀俊に向かって深々と
お辞儀をした。
「じゃあね、またね。」
葵は、そう言いながら笑顔で手を振った。
少年もそれに応えて、小さく手を振ると、
「それじゃあ。」
と、ひとり別な方へと歩いて行こうとした。
その時、
「あ、あぁ、少年。」
そう言って、秀俊が少年を呼び止めた。
「あぁ・・こ、今度、家でクリスマスパーティーをやるから、キミも遊びに来
なさい。」
 秀俊は、ややためらいがちに少年に向かってそう言った。
「あ、はい。是非、お邪魔させてもらいます。それじゃあ、失礼します。」
少年は、うれしそうにそう答えると、もう一度頭を下げてから地下鉄の改札
の方へ向けて歩いて行った。
少年の姿が見えなくなると葵は、秀俊の顔を覗き込むように見上げて、
「へぇー、やるんだぁ、クリスマスパーティー?」
と、秀俊が少年に対して言ったことを追求した。
「そう。やるんだよ。」
「そんなこと、ぜんぜん話してなかったじゃん。」
「いいんだよ! 今決めたんだから。」
「ふうゥゥゥん。」
葵は、なにか“意味ありげ”な相槌を打った。
「いいですね、クリスマスパーティー。」
と、千沙が二人のやり取りに加わった。
「あ、・・あの、良かったら千沙ちゃんも一緒にどうですか?」
「えっ? いいんですか?」
「ハイ。あ、・・もちろん。・・なあ、葵。」
「ふうゥゥゥゥ~ん。」
葵は、秀俊と千沙を見比べるようにしながら、さらに“意味ありげ”な相槌
を打ってみせた。
「ふうゥゥゥ~ん。良かったら・・なんだぁ? ふうゥゥゥ~ん。」
「オイコラ、葵! なんなんだよ!」
「そおよ、なんなのよ! もう!」
「へへへ・・ふうゥゥゥ~ん。」
駅の構内で三人は、何か“変な空気”を醸し出していた。


「・・そっか、そういうワケだったんだ。」
ラーメンを食べ終えて、気持ちが落ち着いた柊子は、自分がナゼ表参道
を歩いていたのか、そしてナゼ泣いていたのかについて、杏二に話して
いた。
「そういうワケだったんです。」
「そっか。それは、辛いわな。」
「ええ、まあ・・・」
「でもさあ、優一さん、だっけ? その彼の方も相当に辛いと思うよ。」
「・・ですよね・・・」
「まさに、苦渋の決断、だったんじゃないかなぁ。」
「・・・・」
「あ、別に柊子さんを攻めてるわけじゃないから・・ね。でも、辛いのは、お
互い様、じゃないかな、って思って。」
「・・ですよね・・」
そう言いながら深刻な表情で考え込む柊子に向かって、
「やっぱさ・・、やっぱ、ちゃんともう一度会って、“バイバイ”ってするべき
じゃないかな? 俺は、そうした方がいいと思うな・・・」
杏二は、あくまで真顔でそう話していた。

「・・ですよ、ね・・・」
と、同じ言葉を繰り返す柊子だったが、なんとなく頭の中を覆っていた雲が薄
くなったように感じていた。

― やっぱり、誰かに話を聞いてもらえて良かった・・・
そう、柊子は感じていた。


次の週の週末。
カレンダーの日付が、12月に変わる直前の夜。
柊子は、杏二の助言通り、優一と会った。
お互いに、今日が最後だと分かってる二人だったが、いつもと何等変わること
の無い二人の時間を過ごした。
そして、別れ際に、
「バイバイ」と、手を振った。
ここだけが“いつも”と違っていた。
“いつも”の別れ際の挨拶は、「じゃあね。」とか「またね。」だったから。
それでも、柊子は、そして、優一も、二人共、笑顔で別れることが出来た。
柊子は、優一と別れた後、イルミネーションが美しい夜の街を歩きながら少し
だけ泣いた。
それは、自分が泣いていることに柊子自信も気付かないような、そんな涙だった。
柊子は、涙が頬をつたってはいたものの、その顔には充実した笑みを浮べていた。

― ありがとう、杏二。あなたのお陰で、キレイに別れることが出来たわ・・・

頬をつたう涙にイルミネーションの光りを浴びせながら、柊子はそう呟いていた。



12月に入ると、月刊「Lips」編集部は、年末進行の佳境に突入して、文
字通り“年末と正月が一緒に来た”ような忙しさになった。
柊子と千沙も、取材に原稿に、とフル回転の日々を過ごしていた。
クリスマスまであと1週間というところで、やっと忙しさのピークは越えられた。
その日、柊子と千沙の二人は、久し振りにオフィスの休憩スペースにいた。
「なんかさぁ、久し振りだね、ココでひと息つくの。」
忙しさから、すっかり脱力した感じの千沙がそう言った。
「うーん、そおだね。」
「なぁんか、もう、一年が終わったって、感じですよね。」
「うーん。今年は、色々有ったからねぇ。」
「ですよねぇ。柊子さんなんか、個人的にも“年末進行”だったワケだし・・・」
「それを言うなっつの! 泣くぞ、今ココで。」
「あっ、あっ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。」
「アンタだって、個人的“年末進行”だったんじゃない!」
千沙は、片桐親子とデートをして以来、年末進行で仕事が忙しいにも関わら
ず、頻繁に「原宿有機野菜店」に足を運んでいたらしいのだ。
「そ、それを言わないでくださいよぉ。」
「ま、上手くいってるみたいで、何よりだわ。」
柊子は目一杯、皮肉っぽく言ってみせた。
「あー、それはそうと、柊子さんどうします? クリスマス?」
「えっ? あー、例のパーティー?」
「うん、そう。どうします?」
「顔出しとこう、かな・・・」
「やった! じゃ、参加ね? 柊子さんも参加!」
「もお、なんでアンタがそんなに喜ぶのよ。」
「だってぇ。 ねえ。」
「ねえ。じゃないわよ。でも、まあ、葵ちゃんにも色々とお世話になってるか
らね。」
「杏二さんも参加するらしいよ。」
“杏二”の名前を聞いて、柊子は何だか少し“ドキっ”とした。
「あ・・、あ、そうなんだ。」
柊子は千沙に、そんな自分の反応を悟られないように、ビミョーな返事をして
いた。


「つか、結局、オレんトコでやってるし・・・」

クリスマスイブの夜。
「原宿有機野菜店」主催のクリスマスパーティーは、何故か「裏原図書館」の
店内でおこなわれていた。
「しょーがないじゃん、ウチ、こんなのやるスペース無いからさあ。」
「ま、いいけどさあ・・・」
「な、いいだろ。杏二は、参加費無料でいいからさ。」
「参加費なんか貰ってんのかよ?」
「ん、結局・・貰ってないケドね。」
そう言って、秀俊は舌を出した。
パーティーには、杏二と秀俊、それともちろん葵と葵のボーイフレンドの少年、
それから千沙と柊子が参加していた。
「じゃあ、とりあえず皆揃ったんで、シャンパンで乾杯なんかしてみまーす。」
シャンパンのボトルを持った秀俊が皆に声をかけた。
「あ、もちろん、少年少女は、ノンアルコールで。」
そう言うと、秀俊は持っていたボトルを杏二に渡した。
「えっ、なんだよ?」
「オレ、こーゆーの苦手、なんだよね・・」
「・・だよねって、・・ったく、・・・」
そう、ブツブツ言いながらも、杏二はシャンパンを開けることになった。
自分の店の中だということもあって、最後は、ボトルの頭をタオルでくるんで
栓を開けた。
“ポンっ!”
タオルでくるまれていたので、それ程大きな音はしなかったが、中身が溢れ出
すこともなく栓は開けられた。
「メリー・クリスマぁース!」
まだシャンパンがグラスに注がれていないのに秀俊が、浮かれてそう声をあげ
ると、何故か他のメンバーもそれにつられて同じように声をあげた。
「メリー・クリスマース!」
と、そこで、店の入口のドアが開けられた。
「あら、みんなでパーティー?」
そんな台詞と共に「裏原図書館」の大家である美津濃 弥生が入って来た。
「あ、大家さん、丁度よかった! 今、シャンパン開けたとこなんですよお!」
秀俊が、その場を繕うように、調子のいい事を言った。
「あら、いいのかしら? 私もお邪魔しちゃって?」
「もちろん、もちろん!」
秀俊は、そう言いながらも葵にグラスの追加を持って来るように目配せしていた。
「じゃあ、私からもコレを提供しまぁす! ハイ、ケーキとシャンパーン! ね。」
弥生が持ってきたソレは、秀俊が用意した物よりも遥かに値の張りそうな物だ
った。
「ラぁッキー! ありがとうございまーす!」
それを見た葵がそんな声をあげた。
他のメンバーも皆、口々に弥生に礼を言った。
そんな皆に弥生は、楽しそうにウインクをしてみせた。
そんな風に「原宿有機野菜店」主催のクリスマスパーティーは始まった。

夕方から始めたパーティーも、2時間もすると閉会のモードとなってきた。
そんな時、柊子がふと窓の外へ目を向けると、店の外でひとり煙草を吸ってい
る杏二の姿が見えた。
柊子は、皆に気付かれないようにそおっと店の外へ出た。
「結構、盛り上がりましたね。」
と、杏二の横に立って声をかけた。
「そうだね。あー、でもコレ、片付けんの大変だな。」
「そうですね。」
「それはそうと、柊子さん、元に戻ったみたいで、よかった。」
「あ、お陰さまで。あの時の杏二さんのアドバイス通り、あの後ちゃんとお
別れできたんです。あれがなかったら、まだモヤモヤしてたかも。」
「そうなんだぁ。いや、ホント、よかった。」
「本当に感謝してます。ありがとうございました。」
「あ、じゃあさ、そのお礼の代わりに一つリクエストしてもいい・・かな?」
「え、何だろ、怖いな・・」
柊子がそう応えると、杏二はニヤっと笑いながら、
「オレにさ、柊子さん切らせてよ。」
「え、なぁんだ、そんな事? それなら、コッチからお願いしますよ。」
「うん。てゆーか、今晩、この後、切らない?」
「え、今晩?」
「そ、クリスマスイブの今夜に。」
杏二は、そう言うと柊子をジっと見つめてきた。
あまりに急なことだったので、柊子は、焦って目を逸らした。
そうしてから、
「・・じゃ、おね、がい、します・・・」
と、たどたどしく答えた。
「あ、でも、なんか、そんな事してもらったりしたら、杏二、さん、の、その、
カノジョさん、とかに怒られたり、とか、しない、かな・・・」
「えっ? オレの? カノジョ? いないいない、そんなの。」
「あ、でも、前に朝ココに来た時に・・・」
「あ、アレ? マユミの事? あー、それ葵にも言われたわ。彼女はね、オレ
と博之・・あー岡部のね、共通の同僚。で、今は千葉の方で人妻スタイリスト
やってんの。」
「え、あ、あー、そ、そうなんで、すか。」
「そ。ま、でも、元カノだけどね。一応。20年近く前の。」
「はあ。そ、そうなんですか。・・・」
「ね、だからさ、そんなの気にしなくていいから、切っちゃお。」
「あ、あー、ハイ。お願いします。」
柊子は、やっと明るい笑顔を杏二に向けて返事をすることが出来た。

気が付くと、店の中から5人の視線が杏二と柊子の二人の注がれていた。
店の外の二人と、中の5人の目が合うと、店の中にいた誰かから、・・たぶん
秀俊から、
「メリー・クリスマース!」
という声があげられた。
すると、連鎖するように再び皆が
「メリー・クリスマース!」
という声をかけあった。

店の外の二人は、ちいさな声で、
「メリー・クリスマス」
と、交わしていた。



■ Theme Tune is 「Overnight Sensation」&「Love Of A Lifetime」
by FIREHOUSE




― 2008年、クリスマス。


白いタキシードを着た秀俊が、直立不動でそのドアの前に立っていた。

しばらくした、そのドアが開くと、純白のウエディングドレスをまとった千沙
が出てきた。
千沙のうしろから、葵と、二人のヘアメイクをしていた杏二が出てきた。
「うわぁぁ・・・」
千沙を見た秀俊は、言葉を失った。
「どおですか?」
「す、すっごい、キレイだ・・・」
「ヒデくん、アタシはどお?」
葵も負けじと、秀俊に尋ねた。
「あ、うん。キレイ・・だよ。」
そんなやりとりを、後ろから見ていた杏二は、ニヤニヤと笑っていた。
「あーっ! 千沙ぁ、すっごおい、キレー!」
そう言いながら、柊子がその場に駆け込んで来た。
柊子は、ビシっとしたスーツを着ている。
「あ、ねえねえ、はじめちゃんが、ご親族の写真とは別に内輪の写真撮ってく
れるって!」
「あ、ホント? じゃ行こう行こう。」
5人は、何故かウエディングドレスを着た千沙を先頭に、写真撮影をする部屋
へと向かった。
そこには、すでにカメラマンの三山 はじめをはじめとして、月刊「Lips」
編集長の土屋 卓巳や、「Hot Stuff」の岡部 博之など、馴染みの顔が集まっ
ていた。
千沙が、その場にいた面々からの驚嘆の声を一身に浴びながら秀俊と共に中央
に並んだ。
柊子と杏二も、その列の中に二人並んで加わった。
はじめちゃんが、焚くストロボの灯りを受けながら、柊子は、

― なんだか、私は、杏二に会ってから魔法にでもかけられたみたいだ・・・
そう、彼は、髪の毛を切ったりメイクしたりするだけじゃなく、彼に接した人
そのものを楽しい時間に連れて行ってくれる、そんな人なんだ・・・


と、思いながら、列の中に並びながら杏二の手を握っていた。



                                          Fin




STORY & Photo by 陳 笈


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by endow2004jp | 2007-12-23 07:30 | 『カリスマ』⑩

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ブログ in ドラマ 第4回作品



「原宿有機野菜店」の娘、葵の計らいで杏二と連絡が取れた柊子。
遂に、カットの予約をすることが出来た。
そんな中、柊子は彼氏の優一から連絡が入り・・・




――――――――――――――― 第9話 ―――――――――――――


― 話があるんだケド、・・・
あらたまって、話す優一の声に柊子は、何かを感じていた・・・


「えええぇーっ!」

オフィスの中にある狭い休憩スペースに、柊子の話しを聞いた千沙の声が響いた。
“話”というのは勿論、柊子が葵と交わした約束の事だ。
今度の日曜日に葵が約束しているデートを、彼女の父親である秀俊に邪魔され
ないように、千沙に秀俊の相手をしてもらう、という作戦の事だ。
えええぇーっ! あたしがぁー!?」
「千沙、声、大きいってば。」
「え・・、あ、うん。でも、何でアタシなワケ?」
葵と話していたように、本当は千沙と秀俊がそのままくっ付いちゃうのもアリ、
などという目論みが有るとは、当然言えるワケもなく、
「・・うん、それは・・、アレよ・・、葵ちゃんのご指名よ。」
と、柊子は、その場をごまかすように言った。
「ま、いっかあ。どうせ、なんの予定があるワケでもないし。」
「じゃ、オッケー?」
「うん。」
「よかったぁ。」
「柊子さん、なんでそんなにホッとしてるのよ?」
「あ、いや別にィ・・」
「てゆーか、そうやってさりげなく、秀俊さんと私をくっ付けようとか、して
るでしょう?」
「くっ付けるって・・そ、そんな事ないわよぉ・・・」
とは言いつつ、柊子は内心、
― げっ、この娘って案外スルドイ・・・
と、ヒヤッとしていた。
「ま、いいや。楽しんできますよ。」
「うん。そうね。お願いね。」
「柊子さんと葵ちゃんのお願いじゃあ、断れませんよ。」
「結構、いい事あるかもよ・・なんてね。」
「はい、はい。でもさあ、久し振りだなあ・・」
「何が?」
ダブル・デートなんてさ。」
「・・・・」
― げっ、やっぱりこの娘、スルドイ・・・「ハハ・・ハハハ・・・」
柊子は、引き攣った笑いで、その場をごまかしていた。


「えっ!?」
柊子は思わず、差し向かいに座っている優一の言った言葉に対して声をあげて
いた。
「な、なんで・・この時期に・・・」

― 話があるんだケド、明日にでも会えないかな・・・

携帯越しにそう言われた柊子は、仕事を強引に終わらせるると、優一が指定し
たイタリアンのレストランへやって来た。
肉料理をメインにした簡単なコースの夕食を済ませると、食後のコーヒーが来
るのを待ってから優一は、本題の話を始めた。
「柊子。」 
「ん?」 
コーヒーを一口飲んだ柊子が、優一の方へ顔を向けた。
「実はさ・・・俺、転勤することになったんだ・・・」
「転勤?」
「あぁ。来月から福岡の営業所に行くことになったんだ。」
「えっ!? な、なんで・・この時期に・・・」
「・・うん。そうなんだけどさ・・」
「来月、って、もう2週間も無いじゃない・・・」
「・・ああ。」

― 転勤? 福岡? 来月? 
3つの単語が柊子の頭の中でグルグルとまわっていた。

「いつ? ・・いつ決まったの、その話?」
「先週。金曜に、辞令が渡された。」
「なんなのソレ? そんな事って・・・」
「・・あるんだよ。そんな事。」

― 転勤? 福岡? 来月? 
3つの単語が柊子の頭の中でグルグルと、さらに早いスピードでまわっていた。

「それでさ・・・、それで、俺、色々と考えたんだ。」
「・・・・」
「俺達の、これからの事。色々、シュミレーションしてみたんだ。」
「・・それで?」
「俺達、終わりにしよう、と思う・・・」
そう言った優一の表情は、柊子がこれまでに見た事が無い程に辛そうだった。
「思う、って・・・」
「お前にも、大切な仕事がある。それに、東京と福岡じゃあ、いくらなんでも
遠すぎるよ、だからさ・・・」

「・・・・」
「だから、お互い、相手を好きでいる内に、キレイに別れた方がいいと思う。」
「・・・・」
「な、柊子。それが、俺達にとって一番・・」
「・・何よ・・・」
それまで黙っていた柊子が、優一の話を遮るように口を開いた。
「柊子・・・」
「何よ、さっきから聞いてれば、一人で考えた事、勝手に並べて!」
「落ち着いてくれよ、柊子。」
「落ち着け? 落ち着けるワケないじゃない! あなたは、・・優一は、何日か
前に話しを聞いて、それを整理してから、今日こうやって話してるケド、アタ
シは、今聞いたばっかりなんだよ! 今ココで聞いたばっかりなの!」

「柊子・・・、頼むよ、分かってくれ。」
優一は、土下座せんばかりの面持ちと口調でそう言った。
それでも柊子は、その言葉を聞くと、座っていた椅子から立ち上がると、
「・・転勤? 福岡? 来月? 終わりにしよう? 別れよう?・・・ふざけ
ないでっ!」

と、言い放って店から出て行ってしまった。

「・・柊子・・・ごめん。・・・すまない。」
柊子が出て行ってしまった後、一人テーブルに残された優一は、うつむいたま
まそう呟いていた。



「柊子さん?」
さっきから、向かい側のデスクで千沙が声をかけているが、柊子は“上の空”
といった風でまるで気付かなでいた。
シューコさん!
「・・ん、あっ、え? 何?」
「何じゃないですよ、もう、さっきから呼んでんのに。」
「あ、ご、ゴメン。」
「どうしたんですかぁ? 何か柊子さん“らしくない”ですよ“心ココに在ら
ず”って感じで。」
「あ、うん。ゴメン・・・」
― ヤバイ、ヤバイ。今は、とりあえず仕事だ・・・
そう考えながらも、柊子の頭の中はすぐに前日の夜に優一から聞いた話の事で
一杯になってしまっていた。



「もしもし・・」

杏二の携帯が鳴ったのは、常連客のカットをしている時だった。
「あぁ、ちょっとゴメン。」 
そう言って手を止めると、ハサミを置いて携帯をジーンズのポケットから出した。
「もしもし・・」
― あっ、あの、柊子です。あ、町島、です。
「あぁー、どおもぉ。」
― ごめんなさい、お仕事中でした?
「ええ、まあ。あ、でも大丈夫ですよ。」
― あのぉ、この間お願いした予約なんですけど・・
「ああ。今度の土曜でしたよね?」
― ええ。それなんですけど・・・
「どうしました。」
― ちょっと、一旦キャンセルにしてもらえませんか?
「あ、ああ、いいですけど、どうかしましたか? 仕事?」
― ・・ええ・・・まぁ・・
柊子の言葉は、明らかに歯切れが悪かった。
「まぁ、仕事じゃしょうがないですよ。 いいですよ、また都合が付いたら何
時でも言ってください。」
― ええ・・。ごめんなさい。それじゃ・・・
柊子からの電話は、あっけなくそこで切れた。
杏二は、歯切れが悪く、心なしか元気も無く感じられた柊子の声が気になっ
ていた。
「どうかしたの? お客さん?」
杏二に、カットが途中の常連客の女性が声をかけた。
「・・ん? あ、あぁ。なんかさ、都合付かなくなっちゃったんだってさ。」
「ふうううん。」
「さあてと、お待たせ。続けるよ。」
そう言うと、杏二はワゴンの上のハサミを手に取った。


「ええ・・。ごめんなさい。それじゃ・・・」
そう言って携帯を切った柊子は、大きく溜息をついていた。
柊子は、オフィスの通路の隅で電話をかけていた。
― あぁ、また溜息ついちゃった・・・
そう思うと柊子は、また大きな溜息をついていた。


「なにやってんだ、お前? また、付いて行く気か?」

日曜日の朝。
杏二が、いつものように店の前で一服していると、まず、可愛らしく着飾った
葵が「原宿有機野菜店」の脇にある出入り口から出てきた。
「おっ! 気合入ってるなぁ。」
「うん。クリスマス前の重要なデートだからねぇ。」
「いいんじゃないか。今日は、メイクも悪くない。」
杏二は、右手の親指を立てながら、そう言った。
「そお? やった。杏二のお墨付きなら、間違いないね。」
「おう! がんばってこい。」
「うん。じゃあネ、行ってくるネ!」
そう言いながら葵は、足どりも軽く出掛けていった。
程なく、今度は「原宿有機野菜店」から、秀俊が出てきた。
秀俊は、またしても、黒い革ジャンを着ていた。
今回はさらに、同じく黒のニット・キャップまで被っていた。
「なにやってんだ、お前? また、付いて行く気か?」
秀俊の姿を見て、杏二が声をかけた。
「大事な娘の一大事だ、放ってはおけん!」
と、まるで侍のような口調で秀俊は答えた。
「知らないゾ。また、葵に怒られても。」
「今回は、この間のようなミスはしない。」
「ま、がんばれや、お前も。」
杏二は、呆れたようにそう言った。
「じゃあな、行ってくるゾ。」
秀俊が、杏二にそう告げて葵の後を追って行こうとした。
すると、
「おはようございまぁーす!」
と、明るい声と共に、建物の影から村田 千沙が現れた。
「え、あれ? 千沙・・ちゃん?」
秀俊は、突然の事に拍子の抜けたような声を出していた。
「あー、今日は、ダメだよぉ。コイツこれから娘のデート邪魔しに行くんだから。」
向かい合っている二人の後ろから、杏二がそう言うと、
「ハイ。わかってます! 今日は、葵ちゃんに頼まれて来たんです。」
「葵に?」
「ハイ。葵ちゃんに秀俊さんの相手をしてくれって、頼まれて来ました。」
「はぁああ?」
秀俊が、今度は、間の抜けたような声をあげた。
「さあ、早く行きましょう! 葵ちゃんが待ってますよ!」
「待ってる・・・って?」
「ダブルデートです! さあ! 早く早く!」
秀俊は、千沙に半ば引き摺られるようにして出掛けていった。

ポツンと、ひとり残された杏二は、
「結局、また葵の勝ちじゃんか・・・」と、呟いていた。



柊子は、日曜日の日が暮れはじめた頃、すっかりクリスマスの色に飾り立てら
れた街の中を、何の目的も当ても無く一人で歩いていた。
気が付くと、彼女は表参道の人ごみの中にいた。
行きかう人々が全て“幸せなカップル”に思えて、柊子の中に“悲しさ”と“寂しさ”
が膨らんできていた。

― 俺達、終わりにしよう、と思う・・・
― お互い、相手を好きでいる内に、別れた方がいいと思う・・・


優一の言葉と、それを話した時の辛そうな表情が、柊子の脳裏に浮かんでは
消えた。
柊子の頬を涙がつたっていた。
すれ違いざま、ぶつかりそうになったカップルが、柊子を見て驚いたように道を
あけた。
知らず知らずの内に柊子は、「裏原図書館」のある路地の入口へと来ていた。
その時、
「あっ!」
という、聞き覚えのある声が柊子の耳に飛び込んできた。
柊子が涙に濡れた顔をあげると、そこには杏二が立っていた。
柊子の顔を見た杏ニは、驚いたような顔を見せたが、それは一瞬で消え、
「お、丁度いいとこで会った。」と言った。
「・・・・?」
柊子は、首を傾ける仕草だけで杏二に聞き返した。
「飯。飯、喰いに行こう!」
杏二は、明るい表情と仕草で、そう言った。
「・・メ・・シ・・?」
「なっ! 飯、行こう。 飯!」
そう言いうと杏二は、柊子の手を引いて日の暮れた街を歩き出していた。
柊子は、杏二が手を引くままに身を任せていた。



■ Theme Tune is 「Overnight Sensation」&「Love Of A Lifetime」
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ブログ in ドラマ 第4回作品 『カリスマ』 次回は、いよいよ―最終回―です!!

*「OTHERS」のカテゴリ内に『カリスマ』の解説が有ります。


STORY & Photo by 陳 笈

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by endow2004jp | 2007-12-16 04:18 | 『カリスマ』⑩

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ブログ in ドラマ 第4回作品



― あぁ、この人の、この手で自分もカットしてもらいたい・・・
そう思うようになっていた柊子が、カットの予約をする為に杏二の元を訪ねた
のだが、またしても彼とすれ違いになってしまい・・・




――――――――――――――― 第8話 ―――――――――――――

11月に入ると、時間の流れる速度が増すように感じる・・・
日本中を、クリスマスと師走のソワソワしたような雰囲気が早くも包みはじめ、
街のいたる処に過剰な程の装飾がされ始めていた。


柊子は、毎年そうであるように、年末進行の仕事に追われ始めていた。
そんな中、携帯の着メロがバッグの中で鳴り響いたのは、その日も帰りが11
時近くになってしまった木曜の夜のことだった。

仕事を終えた柊子は、一人でJRの駅へ向かって歩いているところだった。
柊子は、肩から下げたバッグの中から携帯を取り出すと液晶ディスプレイを確
認した。
そこに表示された番号は、彼女の知らないものだったが、とりあえず通話ボタ
ンを押して電話に出てみた。
「もしもし・・・」
― あっ。 あぁ、あの、町島さん、ですか?
電話の向こう側で、聞いたことのある声が、そう話しかけていた。
「はい。そう、ですケド・・・」
― あっ。あの、杏二・・・、沖田、です。「裏原図書館」の。
電話の相手は、沖田 杏二だった。
「あっ! あぁー、杏二さん!?」
歩いたまま話していた柊子は、そう言いながら足を止めた。
― 葵から、町島さんがカットの予約をしにわざわざ来てくれたって、聞いたも
んですから・・・。

「あっ、ああ。まあ・・・。」
葵が言っていた台詞が、柊子を頭を過ぎった。

― アタシが話しておいてあげますよ。
― 杏二から連絡してもらうから。


― 葵ちゃんの言ってた事は、本当だったんだ・・・。
柊子は、約束通りに杏二に電話をさせた葵に感心していた。
― あ、で、どうします? いつがいいですか?
「えっと、あの・・そうだなあ、土曜か日曜だったら、助かるんですケド。」
― 土日ですか・・ちょっと待ってください・・・えーっと・・・
電話の向こうで、杏二がスケジュールを確認している気配が感じられた。
― 今週は、ちょっと予定が入っているんで、来週はどうですか?
「いいですけど。土曜と日曜、どっちにしましょうか?」
― あ、いいですよ、どっちでも。 今のところ両方空いてるんで。
「じゃあ、土曜の午後でもいいですか? 3時ごろとか。」
― わかりました。じゃあ、来週の土曜の午後3時で。
「はい。お願いします。」
― あ、もし何か・・都合が悪くなったとか、そういう事があったら、この番号
に電話して下さい。それから、今後の予約も。

「はい。 わかりました。 わざわざ、お電話、ありがとうございます。」
― いえいえ。 それじゃあ、来週の土曜、お待ちしてますんで。
「こちらこそ。 よろしくお願いします。」
― それじゃ。
「はい。」
電話を終えた柊子は、何かウキウキしてような気分に包まれていた。
― 美容院へ行くだけでソワソワするのって、どれぐらい振りだろう?
ふと柊子は、そんな風に思っていた。


「それじゃ。」
今まで話していた携帯を閉じると杏二は、「裏原図書館」の店内に貼ってあるカ
レンダーの来週の土曜の枠にサインペンで予定を書いた。
― 3時、町島さま
そこには、そう書いてあった。



あくる日。
夕方6時の定時を迎えると柊子は、まだ仕事の途中だったが一旦オフィスを
抜け出し、オフィスのそばにあるコーヒーショップへとやってきた。
日替わりのホットコーヒーとサンドイッチを買った柊子は、店内の隅のテーブ
ル席に座ると、持ってきていたバッグから携帯を取り出しアドレス帳に登録し
てある番号に電話をかけた。
呼び出し音が数回続いた後、相手が電話に出た。
― もしもーし。柊子さん?
相手は、柊子が話出すよりも早く話はじめていた。
「元気ね。葵ちゃん。」
電話の相手は、「原宿有機野菜店」の娘、葵だった。
― 柊子さん、まだお仕事中ですかぁ?
「そうよ。そうだけど、今は、ちょっと休憩中。」
― ふうううん。なんか、格好いいよね、柊子さんって。キャリアウーマンって
感じで。

「そお? あ、それはそうと、葵ちゃん、ありがとうね。昨日来たわ、電話。」
― 杏二からぁ? そう。やぁっと電話したんだぁ。
「でも、ちゃんとかかって来たわよ。ありがとうね。」
― うん。でも、アタシの“お願い”は、まだこれからだからねぇ。
「ねえ、何なの“お願い”って?」
― ・・うん。ねえ、柊子さん、明日か明後日、会えませんか?
「え? うん。いいけど・・・」
― 会って、その時に話したいから。
「わかったわ。」
二人は、それから会う時間と場所を決めると、電話を終えた。


「しゅうこさぁぁん! こっち、こっち!」
日曜日の午後。
柊子は、葵が指定した渋谷のジュースバーにやって来た。
カウンターでグレープフルーツのジュースを買い、テーブル席のある2階へ
上がると、窓際の席に座っていた葵が柊子を見つけて声をかけてきた。
「こっち、こっち!」
「待った?」
テーブルの上には、葵のカシスオレンジのジュースが入った容器が置かれ
ていた。
「少しだけね。」
「ごめんねぇ。わたし、埼玉のド田舎に住んでるからさあ。」
「すいません、わざわざ。」
「ああ、そういう意味じゃないのよ。」
話しながら柊子は、葵と向かい合った席に座った。
「さてと。で、何? “お願い”ってのは?」
ジュースを飲むのも忘れて、さっそく本題に入った。
「うん。実はね・・・」
「うん。」
「実は、来週の日曜日に彼とデートするんだけど、たぶん・・、また、ヒデくん・・
あっ、ヒデくんっていうのは、アタシのお父さんのことで・・・」
「うん。で?」
「たぶん、またヒデくんが付いて来ると思うんですよ。」
「付いてくるって、デートに?」
「はい。」
「うわ、サイアク。」
「でしょう。この間もそれでヒデくんと喧嘩しちゃって・・・、あ、柊子さんとぶ
つかった時のアレです。」
「ああ。なるほど。」
「なんでぇ、今回は、柊子さんにお願いしてアタシに付いてくるヒデくんの相
手をしてもらおうと思って。」
「・・思って・・って、アタシがぁ! アタシが、葵ちゃんのお父さんの相手
をするの?」
「あ、いや、そうじゃなくて・・別に柊子さんでもいいんですケド・・出来れば、
千沙さんにお願い出来ないかと思って・・」
「えっ、千沙に?」
「はい。千沙さん、このあいだ皆で焼き芋した時に来てたじゃないですか。
あの時、ヒデくんとちょっといい感じだったんで・・」
「ははぁぁん、つまり、こういう事ね。お父さんの相手は、千沙に任せて自分
達は、自分達でと・・こういうワケだ。」
「まあ、早く言うとそういう事です。あ、でも千沙さんって、今カレシとかい
ますか?カレシのいる人にそんな事頼んじゃマズイだろうから・・」
「えー、確か今はあの娘、フリーだって言ってたわ。」
「じゃあ、柊子さんから、なんとか頼んでもらえませんか?」
「・・うん。わかった。もう、来週の話で時間も無いからね。当たってみるわ。」
「ありがとうございます。ヒデくんも、自分に相手がいたらアタシのデートに
付いて来たりしないだろうし。」
「わかったわ。他でもない葵ちゃんの頼みとあっちゃ断れないわ。さっそく、
明日トライしてみるね。」
「お願いします。」
「なんか、わたしも面白くなってきちゃった。結構、上手くいっちゃったりし
てね。あの二人。」
「そうですね。」
柊子は、そこまで話して初めてジュースに口をつけた。
「ねえ。ところでさあ・・」
「なんですか?」
「葵ちゃんって、結構イカシタ店知ってんのねぇ。」
「へへ。そうですか?」
「うん。」
言いながら、ジュースも飲みながら、柊子は、その店内を改めて眺め見て
いた。
「ねえ、柊子さん。」
「え、なに?」
「柊子さん、この後何か予定あります?」
「うううん、何にも無いけど。」
「じゃあ、買い物に付き合ってもらっていいですか?」
「いいわよ。何? デートに来ていくモノでも見るの?」
「・・まあ。」
葵は、少し恥ずかしそうに、そう答えた。
「じゃあ、わたしがコーディネートしてあげる。こう見えても、女性誌の編集
者だからね、わたし。」
「すっごーい! いいんですかぁ?」
「うん。じゃあ、コレ飲んだら行こうか。」
「はい!」

― 大人びてはいても、やっぱり10代の女の子なんだなぁ・・・
などと思いながら柊子は、楽しそうにしている葵を見ていた。


引き戸を開けて杏二が「十番ラーメン」の店内へ入ると、
「おぉっ!いらっしゃい! キョウちゃん。」
と、店主が大きな声をかけた。
「だから、その“ちゃん”は、よせってば。“ちゃん”はぁ。」
そう言いながら杏二は、カウンターの端に腰掛けた。
「えぇっとねぇ、オレ、味噌ね。味噌。あ、あとビール。」
「あいよぉー!」 
店主が、いつものように気前良く注文を受けた。
カウンターの端で、店主が自分の注文にとりかかるのを見ていた杏二は、ふと
カウンターの反対側の端に座ってラーメンを食べている男性に目が止まった。
杏二は、その男性をどこかで見たようなきがした。
しかし、いくら考えても何処で会ったのか思い出せなかった。
そうする内に、店主が缶ビールとコップを杏二の前に置いていった。
ビールをコップに注ぎながらも杏二は、その男性のことが気になっていたが、
やはり、何処で会った誰だか思い出せなかった。

そのラーメンをすすっている男性が、町島 柊子と共にこの店に来ていた男で
あるとは、杏二には思い出すことが出来なかった。



― 話があるんだケド、明日にでも会えないかな・・・

柊子がそんな、どことなく歯切れの悪い片岡 優一からの電話を受けたのは、
葵と会った日曜日の夜のことだった。

― なんか、このところ電話に振り回されてるな・・・
柊子は、そんな風に思いつつ優一の声を聞いていた。

― 話があるんだケド、・・・
あらたまって、話す優一の声に柊子は、何かを感じていた。




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杏二の腕にすっかり魅せられた柊子は、
― あぁ、この人の、この手で自分もカットしてもらいたい・・・
そう思うようになっていた。




――――――――――――――― 第7話 ―――――――――――――


「おっ! アジかぁ、いいねぇ。」

日曜の朝。
町島酒店の開店前の準備を終えた町島 雅夫が、日本酒の銘柄が入った厚手
の前掛けを外しながら、店舗の部分から引き戸を隔ててすぐ奥にある町島家の
居間へと入ってきた。
雅夫は、居間の大半を占拠している一年中出しっぱなしのコタツにいそいそと
入った。
「やっぱ、日本人の朝メシは、白いメシに焼き魚と納豆、だやねぇ。」
コタツの上に並べられた、朝食を見ながら雅夫が言うと、
「そういう事ばっか言ってるから“酒屋のオジサン”とかって言われちゃうん
だよ。」
と言いながら雅夫の妻、佐千絵が卵焼きの乗った皿を手にキッチンからやって
きた。
「いいじゃんか・・」
「ま、そうよね。オジサンは、オジサンだからねぇ。」
雅夫と佐千絵には、10歳の歳の差がある。
「そんなに、オジサン、オジサンって連呼するなよ・・・」
「はいはい。さ、食べましょ。」
「ん? 食べましょって、柊子は? また、まだ寝てんのか?」
雅夫は、二人だけで食事を始めようとする佐千絵に聞いた。
「柊子だったら、とっくに出掛けましたよ。」
「え、日曜だってのにそんな早くに出掛けたのか? だって、今まだ8時だぞ。」
「うん。なんか、いそいそと出掛けていったわ。」
「ふーん。 まさか、仕事じゃないよな?」
「・・たぶん。 完全に私服だったから・・」
「そおかあ・・・」
雅夫は、日曜の朝食に妹の柊子がいないのが、不満のようだった。
「もう、雅夫さんったら、柊子だって年頃の女の子なんだから。ね。」
妹の柊子と、そもそも柊子の職場の同僚だった妻の佐千絵は、一つしか歳が違
わない。
つまり、柊子も佐千絵のように結婚をしていても全くおかしくない年齢なのだ。
「・・ま、そうだよな・・」
佐千絵は、なんとか雅夫を納得させると、
「さ、食べましょ。」 
と、自分から箸を手に取ると、さっさと食事を始めた。
「あ、・・うん。」
なんとなくモヤモヤした気分は晴れていなかったが、雅夫も箸を手にとっていた。



よく晴れた日曜日の朝。
まだ、人通りも自動車の交通量もあまり多くない原宿・表参道を、神宮の森の
方から白いトレーニングウエアに身を包んだ沖田 杏二が一人、走ってきた。
杏二は、天気のいい日の朝にはこうして、神宮外苑辺りまでランニングをして
いる。
ランニングシューズがアスファルトの路面の上を軽やかにグリップしていく。
やがて、車道の隅を走ってきた杏二は、歩道を横切るとビルとビルの間の路地
へと入っていった。
路地へ入ると、間もなく「裏原図書館」の前へと戻ってきていた。
インナーイヤー型のヘッドフォンから流れる音楽に合わせて、杏ニが軽く歌っ
ている鼻歌が聞こえていた。
杏ニは、そのまま「裏原図書館」の前で軽いストレッチをすると、店の入口の
ドアへ向かった。

「キョージ。」
杏二がドアの鍵を開けようと、トレーニングウエアの上着のポケットからキー
ホルダーを出そうとしていると、背後から声をかけられた。
呼びかけられたその声は、女性のモノだった。

「キョージ。」

声に呼ばれるまま振り返った杏二は、その声の主を目にとめると、自然とその
表情に笑顔が浮かんでいた。
声のしたその先には、以前、杏二と同じ店で共にスタイリストをしていた女性、
小田 真弓(おだ まゆみ)が立っていた。
「よお!」
自然と杏二は、そんな声をかけていた。
真弓は、そんな杏二の声に、ただ笑顔を浮べていた。


「裏原図書館」の店内へ招き入れられた小田 真弓は、杏二がシャワーを浴び
て着替えをしてくるのを待つ間、“彼の店”の中を眺めていた。
余計な装飾や、流行を追ったような仕様のまったく無い店内の雰囲気は、実に
杏二らしい、と真弓は感じていた。
「お待たせっ。」
ものの15分程度で、着替えを済ませた杏二が二階から降りてきた。
「ここに住んでるの?」
「ああ。そう、ここの二階に、ね。」
「ふううん。そうなんだぁ。」
「久し振りだよな。何年ぶりかなぁ?」
「10年、・・までは、いかないけど、それに近いよね。」
「そうかぁ・・そんなになるかぁ。ところで、今日は、どうしたの?」
まだ半乾きの髪の毛を少し気にしながら杏二が聞いた。
「えっ?」
「いや、だって、偶然ってワケじゃないでしょ、ココ来たの。」
「あっ、そうだよね。実はさ、この間、博之のトコ行った時に杏二がここで店
やってるって聞いてさ。」
博之とは、「Hot Stuff」の岡部のことだ。 彼も二人と共に同じ店で働いていた。
「あぁ、やっぱ情報の元はアイツかぁ。アイツのトコには、よく行ってんの?」
「たまに、っていう程度かな・・で、ソレ聞いたら、やっぱ会ってみたくなっ
ちゃって・・・。」
「そっか。じゃあ、特に俺に切ってもらいに来たってワケじゃないんだ?」
「うん。まあ。・・あ、でも今度、切ってもらおうかな。」
「OK いつでもいいよ。この通り結構ヒマだし。」
「うん。」
やはり髪の毛が濡れたままなのが気になった杏二は、側にあったタオルを手に
取ると、髪を拭きだした。
「真弓は、どうなの? まだ髪切ってんだろ?」
「うん。ま、一応。今は千葉に住んでるんだけど、そっちでね。」
「結婚、したんだよな?」
「うん。それで、今は千葉にいるの。苗字も今は“野田”に変わってるのよ。」
その事を杏二は、博之から聞いていた。
「そっか。お互い、それなりに時間が過ぎたってことだな。」
「うん。今は、たまに、こうやって東京に出て来るのが、ちょっとした楽しみ、
かな。」
「そうか。」
「うん。」
「あ、ところで。」
まだ髪を拭いていた杏二が、そう言った。
「髪を切るってワケじゃなければ・・、とりあえずさあ、メシ、付き合ってく
んない?」
「えっ?」
「いや、ほら、俺、走ってきたからさ、腹減っちゃって。」
「ふふふ、いいわよ。」
言いつつ、真弓は、まだ笑っていた。
「何?」
「杏二、変わってないなぁと思ってさ。」
「なんだそれ?」
「そうやって、マイペースなとこ。」
「そう? 俺が? マイペース?」
「うん。昔っから、杏二のそういうとこ、いいなぁって思ってた。」
「それって俺、褒められてんの?」
「もちろん。」
「じゃあ、いいことにするか・・。」
そんな杏二の台詞を聞きながら、
― ほら、そういうところがマイペースなんだよ。
と、真弓は思っていた。



― それにしても、このところよくここに来るなぁ・・・
JRを原宿で降りた町島 柊子は、ふとそんな事を考えていた。
元々、女性誌の編集者という職業柄、原宿・表参道・青山というエリアへ来る
事は多かったが、それでも最近は、六本木や銀座などに最新の流行のエリアが
分散したこともあって、以前ほど頻繁に足を運ばないエリアとなっていた。
ラフォーレとGAPが向かい合う交差点を渡ると、このところ頻繁に足を運ん
でいる路地の入口が見えてきた。
柊子は、ためらう事なくその路地へと入っていった。
ほどなく、「裏原図書館」と「原宿有機野菜店」が見えてきた。
今日は、まだ朝の10時前だというのに珍しく、「裏原図書館」の店内に明かり
が点いていた。
柊子が、いそいそと「裏原図書館」へ向かっていた丁度その時、店の入口のド
アが開き一人の女性と、その後から杏二が出てきた。
「あっ。」 
思わず小さな声を出した柊子は、何故か建物の影に身を隠していた。
杏二と、その女性の二人は、言葉を交わしながら表参道へ向けて歩いていって
しまった。

二人が通り過ぎた後、「裏原図書館」へ目を向けると、店内の明かりは完全に消
えてしまっていた。

ちくしょーっ! またかよ!
柊子は、その場でひとりごちていた。
その時、柊子のすぐ後ろから、
「あれ、柊子さん?何してるんですか、こんなトコで?」という声が聞こえた。
柊子が振り返ると、そこには「原宿有機野菜店」の店主、片桐 秀俊と、その娘、
葵が並んで立っていた。



「なぁんだ、杏二にカットしてもらいたくて、来てたんですか?」
開店準備中の「原宿有機野菜店」の店先で柊子の話を聞いていた葵が、そう言
った。
「そうなのよ。だけど中々、肝心な話をするチャンスが見つからなくて・・」
「そんな事だったら、アタシが話しておいてあげますよ。柊子さん、携帯の番
号教えて。」
「携帯?」
「うん、杏二から連絡してもらうから。」
「いいの?そんな事、お願いしちゃって?」
「いいの、いいの。あ、でもね、アタシのお願いも聞いてもらえますかぁ?」
「お願い? 何?」
柊子がそう聞き返すと葵は、父親の秀俊が側にいないのを確認してから、
「それは、後で柊子さんの携帯に電話しますね。」
と、言って大人っぽくウインクしてみせた。
「ね。約束だよ。」
「う、うん。わかった。」
柊子は、葵に半ば押し切られるように約束をさせられていた。

― この娘のお願いって、いったい何だろう・・・
そんな思いが頭を過ぎったが、杏二にメッセージを伝えてくれるという交換条
件では、葵の願いも聞かざるおえなかった。

「それにしても、さっきの女の人って何だろうね? 柊子さん。」
「えっ?」
「杏二と歩いていった人よ。柊子さんも見てたでしょ?」
「うん・・まあ・・・・」
「やぁっぱ、“ワケあり”かなぁ?」
「ワケあり・・って。」
― 最近の女の子は、凄いこと考えるんだなぁ・・
などと感心しつつ、何故か葵の言ったことを聞いて“ドキッと”した自分に驚
いていた。

― あたしったら、何“ドキっ”とかしてるんだろ・・・
そんな事を、柊子は考えていた。



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by endow2004jp | 2007-12-02 04:15 | 『カリスマ』⑩

トランスメディア提供アイコン01ブログ in ドラマ 第4回作品 『カリスマ』 ―第6話―

ブログ in ドラマ 第4回作品



雑誌の撮影で美容院「Hot Stuff」を訪れた町島 柊子。
その前で、怪我をしてしまったスタイリスト岡部の代打として、沖田 杏二がカットをし
てみせた。
杏二の腕にすっかり魅せられた柊子は、
― あぁ、この人の、この手で自分もカットしてもらいたい・・・
そう思うようになる。




――――――――――――――― 第6話 ―――――――――――――


街を黄色い・・いや、オレンジ色のかぼちゃ達が通り過ぎていった。

気付けばカレンダーの日付は、11月へと変わっていた。
街の雰囲気も、そこに行きかう人々の服装も急激に冬の色合いを濃くし始めて
いた。

「あっ、あぁ~っ! 終わったぁ! やぁっと、校了だよぉ!」
デスクの椅子に座ったまま、大きく伸びをしながら柊子が大きな声をあげた。
「お疲れさん。」
知らぬ間に柊子のデスクの側に立っていた編集長の土屋 卓巳が、校了の
安堵から柊子へ労いの言葉を送った。
「あ、お疲れ様です。」
「中々、いいモノが出来たな。」
「あ、ありがとうございます。お陰さまで、なんとか形にできました。」
「次号も頼んだゾ!」
「はい。」
「ま、その前に、明日・あさっての土日は、ゆっくりと休むんだな。休めるん
だろう?」
「はい。きっちり、休みます。」
「よし。じゃあ、週明けからは早速、次号に取り掛かるぞぉ!」
と、後半は自分に言い聞かせるように言いながら、土屋がその場を離れてい
った。
「よしっ! ひっさびさの完全な連休だぁ!」
柊子も、自分に言い聞かせるように口に出して言ってみた。
「カレシとデートですかぁ?」
向かい合わせのデスクに座っていた千沙が、柊子が思わず口にした言葉に、
ニヤニヤしながらすかさず突っ込んできた。
「さあねぇ。それは、ヒ・ミ・ツ。」
柊子は、わざと含みを持たせたような応え方をしてみせた。
「はいはい、そうですか。」
千沙も、柊子の台詞に合わせるような対応をしてみせた。
「それはそうと、せっかく校了したんだし、今日は食事にでも行きますか?」
「やった! 柊子先輩、ゴチになります!」
柊子の提案に千沙が、明るい声をあげた。
「ったく、こういう時だけ“先輩”とかって、調子いいんだから。」
柊子は千沙に、あきれた顔をしてみせた。

校了を終えた編集部に、つかの間の平穏が訪れていた。
この穏やかな時も、これから年末へ向かうにつれて戦場のごとき様相へと変
わっていくのだ。
今は、柊子も千沙も、この貴重な時間を楽しんでいた。


「どうですか?」

「裏原図書館」の店内。
自分が手にした鏡のボードを、合わせ鏡にして後ろ髪をみせながら杏二が、
正面の鏡の中で優しく微笑みながらそのボードを見つめている美津濃 弥生
に問いかけた。
「うん。いいわ。やっぱり、杏二君のカットって髪の毛が落ち着いていいわぁ。」
「よかった・・、ありがとうございます。」
手にしていた鏡をしまうと杏二は、弥生が椅子から立つのをエスコートした。
「弥生さんくらい頻繁にお手入れ出来れば、髪の毛もきれいにキープ出来ま
すよ。」
レジカウンターの後ろにあるクローク代わりのロッカーから、弥生が羽織って
きたダウンジャケットを出しながら杏二は話していた。
「けっこう、みんな2~3ヶ月に一回しかカットしなかったりしますから・・、
それだと、やっぱり髪の毛のメンテナンスっていうより、髪の毛を切り揃える
だけになっちゃうんですよね。」
「ふううん。そうなんだぁ。あ、ありがと。」
ダウンジャケットを受け取りながら弥生が、相槌をうった。
「あ、今日は、いいですよ。この間、かなり多くもらっちゃいましたから・・」
ハンドバッグから財布を出そうとしている弥生を見た杏二が、弥生を制するよ
うにそう言った。
「いいの、いいの。だぁって、ちゃんと払わないで杏二君に浮気でもされたら私、
困っちゃうもの。」
「ウワキって・・・」
「フフフ。 杏二君には、ずっと私の専属スタイリストでいてもらわなきゃ。 
その為にわざわざココに来てもらったワケだし。ね。だから受け取っておいて。」
「・・・・。」
「はい、コレ。今日の分ね。」
そう言うと弥生は、1万円札を数枚レジカウンターの受け皿へ置いた。
「スイマセン。じゃ、ありがたく頂戴します。」
「今度は、再来週にお願いすると思うわ。」
「また、連絡ください。」
杏二は、そう言うと、弥生を店の外までエスコートして見送った。
「じゃあね。またね。」
弥生は、そう言いながら右手をひらひらと軽く振りながら、すっかり日の暮れ
た表参道へと歩いていった。
杏二は、しばらくその後姿を見ていた。


「ん・・・、ん?」
柊子は、カーテン越しに日差しを受けながら、ベッドの中で眠い目を擦った。
何か、違和感と自分を凝視している視線を感じて目を覚ました。
「ん・・・? だっ、だぁぁぁぁぁーっ!
柊子は、そんな意味不明な声をあげると、ブランケットと毛布の掛け布団ごと
身体を窓側へと飛びのかせた。
ベッドのすぐ脇。 柊子の顔のすぐ側で、兄嫁の佐千絵が柊子の寝顔を覗いて
いたのだ。
「な・・何なのぉ?」
「柊子って、そういう寝顔なんだなぁって思って。」
「はあぁ?」
「だって、さっきから何回も起こしてるのに柊子、起きないんだもん。」
「もう、ビックリしたなあ・・・って、いま何時?」
部屋の中が、外からの自然光で明るくなっている事の気付いた柊子が、佐千絵
に聞いた。
「え、いま? だいたい11時位かな・・。」
「え、ジューイチジ? ゲっ! ヤバ、起きなきゃ・・」
柊子は、そう言うと、布団を剥ぎ取ると勢い良くベッドから降りた。
「ヤバって、今日、アンタ休みでしょう?」
「休みだけど、色々あんのよお。」
「・・つーかアンタ、さっきから思ってたんだけど・・いったい、なんて格好
して寝てんのよ?」
「え?」
柊子は、佐千絵に言われて、ふと姿見に映る自分の姿を確認した。
姿見の鏡の中には、ボタンが段違いで一つしかとまっていないパジャマの上着
に、何故かショーツ一枚の格好で、髪の毛ボサボサの自分が映っていた。
「どっ、どわぁぁぁぁー!」
叫びながら、慌ててパジャマの前を閉じた。
見ると、パジャマのズボンは、ベッドの隅で丸まって落ちていた。
「・・たく。雅夫さんが柊子のその姿見たら、鼻血ブーだね。」
「見せないよ・・こんなモン。」
「ねえ、柊子・・・」
「え、何?」
「まだ見えてますけど・・おっぱい。」
「がーーーっ! もう、わかったから、ちょっと出ててよぉ!」
そう言いながら柊子は、しゃがみこんだ。
「はいよ。これ以上、元同僚のセクシーな格好見せられても困りますからねえ。」
そう言うと、佐千絵は部屋から出て行った。
佐千絵は、兄の嫁ではあったが、柊子とは元同僚だったこともあり、いまだに
仲がいい。
世間が想像する、嫁と小姑のようなドロドロとした関係は、二人の間には全く
無かった。

― それにしてもなんで、こんなカッコして寝てたんだろ? 気を付けなきゃ・・
佐千絵の出ていった部屋で柊子は、一人そんな事を思っていた。


その日。 土曜日の午後。
柊子は、また表参道に来ていた。
今日は、原宿からではなく地下鉄を表参道で降り、表参道と246が交差する
交差点へ出た。
地上に出た柊子を、冬の始まりの乾いた空気が包み込んだ。
柊子は、そのまま紀伊国屋スーパーの側の酒屋で6本入り缶ビールをふたつ
買うと、表参道へ戻り、そのゆるやかな坂道を下っていった。
すでに4回目となる「裏原図書館」への道は、すっかり頭に入っていた。
特に時間の制約があるわけではない柊子は時おり、通りに面した店や通りの
反対側にある“表参道ヒルズ”を眺めたりしながら、ゆっくりとした足どりで歩
いていった。
表通りの喧騒から逃れるように路地へと入ると、やがて「裏原図書館」が柊子
の視界へと入ってきた。

今日も、「裏原図書館」の店内には明かりが点いていないようだった。

しかし、「裏原図書館」の対面、「原宿有機野菜店」の前に何人かの人がいる
のが見えた。
その中に、杏二がいるのも確認できた。
柊子は、少しだけ足どりを早めると、杏二達の元へと向かっていった。

「こんにちは。」
柊子は、杏二達に向けてそう声をかけた。
見ると、そこには杏二の他に、「原宿有機野菜店」の店主と片手を包帯で包ん
だ「Hot Stuff」の岡部がいた。
3人は、四角い缶の中に火を焚いて、それを囲んでいた。
「あ、柊子さん! どうしたんすか?」
真先に岡部が柊子に気付いて声をかけてきた。
「あら、岡部君もいたんだぁ。丁度よかった。実は、この間のお礼にと思って
今日は来たの。これ差し入れです。」
缶ビールを差し出しながら、柊子は答えた。
「おっ、ビールじゃん。丁度いいねぇ。」
今度は、「原宿有機野菜店」の店主がそう言う。
杏二は、缶ビールを受け取りながら、
「どうも。わざわざ、すみません。丁度、これから“おやつ”を作ろうとしてた
んですけど、一緒にどうですか?」と、聞いてきた。
「えっ? “おやつ”ですか?」
「ええ。あ、ほら来た。」
杏二が目を向けた方へ、柊子も目を向けた。
「原宿有機野菜店」の店内から店主の娘葵が、何かを入れたカゴ持ってくる
ところだった。
葵を目で追っていると、その後から何故か千沙も出てきた。
えっ、千沙ぁ! なんでいるの?
柊子は、思わず声をあげた。
「あちゃ・・柊子さん・・・」
柊子の声に千沙は、バツの悪そうな顔をしてみせた。
「ああ、千沙ちゃんはねえ、コレを買いに来てくれたんですよ。」
「原宿有機野菜店」の店主は、そう言うと、葵の持ってきたカゴからアルミホ
イルに包まれたモノを取って柊子に見せた。
「もしかしてぇ・・・おイモ? ・・アンタって娘は、まったくもう・・・」
「へへ。また食べたくなっちゃって。」
それは、どうやら、千沙が以前にもここで買っていたサツマイモのようだった。
それをこれから、ドラム缶の焚き火の中で焼くらしい。
「葵、この人は、千沙ちゃんの上司で、えーっと・・・」
「原宿有機野菜店」の店主は、そこまで言うと言葉に詰まった。
「町島 柊子っていいます。」
柊子は結局、自分で名乗った。
「片桐 葵です。」
葵も改めて、自分の名前を柊子へ伝えた。

こうして、6人の男女がなんとなく焚き火を囲むこととなった。

「どうぞ。」
しばらくして葵が、柊子と千沙に小さな椅子を持ってきてくれた。
「ありがとう。」
そう言いながら、その椅子に腰掛けると、
「あの・・・、マチジマさん・・でしたっけ?」 
と、葵が話しかけてきた。
「柊子、でいいわよ。」
「えっと・・あの、柊子さん。この間は、ごめんなさい。」
「えっ? この間って?」
「ここで、ぶつかっちゃったじゃないですか・・」
柊子は、二度目にここへ来た時に葵にぶつかられた事を思い出した。
「ああ。あの時の。別にいいわよ。怪我したわけじゃないし。」
「よかった。もしも柊子さんが覚えてて、怒ってたらどうしようって、思っち
ゃって。」
「葵ちゃん、ダイジョーブよ、柊子さんって、こう見えて実は、物忘れがはげ
しいんだから。」
心配そうにしていた葵に、千沙がそう言った。
「千沙ぁ、アンタ一言余計よ。」
千沙が、舌を出しておどけてみせた。
二人のやり取りをみていた葵にもやっと、明るい笑顔が戻ってきた。

 
柊子は、原宿の路地裏で地味に盛り上がる輪の中にいながらも、
― ホントは、違う用件もあって来たんだけど・・・ま、いいか。
と、そんな風に考えていた。




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by endow2004jp | 2007-11-18 05:37 | 『カリスマ』⑩

トランスメディア提供アイコン01ブログ in ドラマ 第4回作品 『カリスマ』 ―第5話―

ブログ in ドラマ 第4回作品



雑誌の撮影で美容院「Hot Stuff」を訪れた町島 柊子を待っていたのは、
左腕を包帯で吊ったスタイリストの岡部だった。
岡部は、雑誌の取材に穴を開けないよう代打のスタイリストを用意して
くれていた。
その代打スタイリストは、なんと柊子が会いたかった沖田 杏ニだった。
いよいよ、柊子の目の前で杏二がカットを始める・・・




――――――――――――――― 第5話 ―――――――――――――

― 美容院、美容室、パーマ屋・・

呼び方は色々あるが、そこには共通した独特の“匂い”が確かにある。
シャンプーや整髪料、パーマ液などの溶剤、そして人間の髪の毛が乾く時の香り。
そんな色々な香りが重なり合った独特の“匂い”が、その空間に染み付いている。
いわゆる床屋の持つ“匂い”とは異なる、独特の“匂い”が、そこには明らか
にある・・・
そんな“匂い”を初めて感じたのは、いつだったろう・・・


町島 柊子はふと、そんな事を考えていた・・・


美容院「Hot Stuff」の店内は、シーンと静まりかえっていた。
定休日の今日は、普段流れているBGMのCDもかかっていない。
ただ、美容院の“匂い”だけが、いつもと変わらずにそこにあった。
そして今、静まりかえったその店内に、沖田 杏二が動かすハサミの音だけが
僅かに響いていた。
柊子や千沙をはじめとした撮影の関係者と、店長の岡部など数人の店のスタッ
フが見守る中、杏二は一人、作業に集中していた。
杏二がカットをはじめてから、既に30分ほどの時間が経過していた。
カットに取りかかった杏二は、まず最初にモデルの女性の頭に両手を当ててい
た。
「ああやって、頭の形と髪の毛の感じを確認してるんですよ。」
静かに杏二の動きを見つめていた柊子に、その横に立っていた岡部が説明した。
ほんの僅かな時間そうして頭に手を当てていた杏二は、その手を離すと鏡越し
にモデルの女性を見つめながら、
「OK」
と、小声で言うと、自分のすぐ脇に置かれたワゴンの上に開いたホルダーから
ハサミを手に取った。
杏二は、美容師がよくするようにシザーバッグを腰に下げることはしないようで、
すっかり使い込んだ大工がノミなどを入れておくのに使いそうなグレーの皮製
のホルダーにハサミなどの道具を入れて、それをワゴンの上に広げて置いて
使っていた。
杏二は、それからおもむろにカットをし始めた。

モデルの女性が座った椅子の下に、カットされた髪の毛が少しずつ落ちてい
った。

一言も言葉を発せずに杏二の動きを目で追っていた柊子は、鏡の中に映る
モデルの髪型が、徐々に完成へと近づいているのを感じていた。
「はじめちゃん。」
柊子が、そばでスタンバイしていた“はじめちゃん”に声をかけた。
「はじめちゃん。写しておいて。」
「えっ?」
「シャッター・チャンスよ。 モデルさんの顔、見て。」
そう柊子に言われた“はじめちゃん”が、鏡に映るモデルの女性を見た。
そこには、これまでにも何度か一緒にした事があるそのモデルの女性が、こ
れまでに見せた事のないような、“キレイ”で、“可愛くて”そして、“やさしい”
感じに微笑む姿が映っていた。
モデルのその女性は、杏二と特に会話をしている様子ではなかった。
 杏二は、柊子が見ていた限り、作業を開始する時に言った「OK」という一
言以来、口を開いていなかった。
モデルの女性が、鏡に映った“変化していく自分”を見て自然と微笑んでいる
事が、柊子には解っていた。
「あ、・・・は、はい。」
“はじめちゃん”は、慌ててカメラを構えると、杏二達の邪魔にならないよう
に少し離れた位置からフラッシュも焚かずに撮影をしはじめた。
柊子は、“はじめちゃん”の、指示をしなくてもこういう細かい気遣いが出来る
部分を信頼していた。
最高のカットが進行していく様と、最高の表情を見せるモデルとを、同時に生
で見つめることの出来る現場に居合わせたことを柊子は、とても幸せに感じ
ていた。


「おーい! 葵ィ!」
「原宿有機野菜店」の店内にいた店主の秀俊が、店の奥に向かって大きな声で
自分の娘を呼んだ。
「おーい!」
「んもう、何?」
そう言いながら、店の奥から普段着に着替えた葵が顔を出した。
「な、コレどう?」
秀俊が、両手に持った器を示しながら言った。
「えぇ? 何ィ?」
「ほら、コレ。」
器をひとつを、葵の方へ差し出した。
「あ! じゃがバターじゃん!」
器の中で、バターのかたまりが乗せられた大きなジャガイモが湯気をあげていた。
それを見た葵の表情が、一気に華やいだ。
「いらないなら、いいんだけど。」
秀俊が、焦らすように言った。
「あぁぁぁ、いる。いります。おとうさまぁ。」
「原宿有機野菜店」の狭い店内に、親子の明るい声が響いていた。


「出来た。」

セットの仕上げを、ワックスを軽くつけた手ぐしで施すと杏二は、モデルに対して
とも周囲のスタッフに対してとも取れないような感じで作業の終了を告げた。

鏡の中には、軽い感じのする少し短めのセミロングで、わざとらしい巻き髪な
どは施さないサラッとした清潔感のある髪型に仕上がったモデルの女性がいた。
― その髪型は、モデルの女性にとても似合っていた。
と、その場にいた誰もがそう思っていた。

「お疲れ様。」
それから、モデルの女性に対して改めて労いの言葉をかけた。
「お疲れ様。」
二人を取り囲んで見守っていたスタッフからも、口々に労いの言葉があがった。
柊子は、杏二の側へと歩み寄り、
「お疲れ様。」と、改めて言った。
「お疲れ。どうかな?」
と、後半は、仕上げたばかりのモデルを示しながら杏二が言った。
「すごくいいわ。モデルさんにも、スゴク似合ってるし。これは、何ていうス
タイルなんですか?」
「スタイル? 名前? そんなの無いよ。俺は、ただ彼女に似合う髪形を創っ
ただけだから・・・ ネーミングが必要だったら、博之に決めてもらってよ。」
「・・あ、そ、そうしますね。」
柊子は、杏二の言葉に軽く圧倒されてしまっていた。
杏二の言った言葉は、つまり、特に決まったスタイルや、ベースとするスタイ
ルなどは考えずに、あくまでモデルの女性に似合うという事だけを考えて髪形
を創った・・・つまり、その場ではじめて会ったモデルさんに似合うように考
えながら成り行き、もしくはアドリブでカットをしたという事なのだ。
そんな杏二の言葉に柊子は、愕然としていた。
「あ、ねえ。」
愕然としたままの柊子に、杏二が声をかけた。
「・・えっ、あっ、はい。」
「あのさあ、せっかくだから、メイクもやっちゃってもいいかなぁ?」
「あ、も、もちろん。あの、お願いします。」
柊子は、杏二の提案を快諾した。
柊子達のチームには、衣装のスタイリストは来ていたがメイクの専任担当は来
ていなかったので、杏二からの提案は好都合だった。
「マジ? じゃあ、やらせてもらうね。」
 杏二は、何かノリノリな雰囲気でそう言うと、
「おーい、博之。誰かに俺のメイクボックス持って来させて。」
と、岡部に指示を出した。
それから、柊子に向かって、
「こういうシチュエーションで切るのは、久し振りだったから、ヤッパ少し緊
張しちゃったよ。」 
と、言って笑って見せた。
「そうなんですか? なんかホントに素敵ですよ、その髪型。」
杏二の、あまりにも素のままな感じの言葉に、柊子も正直な感想を改めて伝えた。
「うん。よかった。」
そう言った杏二のもとへ「Hot Stuff」のスタッフが、メイクボックスを持って
きた。
「あ、サンキュ。」
言いながら、ボックスを受け取った杏二は、再び鏡越しにモデルの女性を見ると、
彼の頭の中は既にメイクの事に集中し始めているようだった。
そんな杏二を後ろから見ながら柊子は、自分の頭の中にある“濃厚な欲求”が
湧き出して来ているのを感じていた。

― あぁ、この人に・・、この人の、この手で自分もカットしてもらいたい・・・

柊子は、そんな自分の中に湧き出したその“濃厚な欲求”に自分は、たぶん抗
うことが出来ないだろう、と思っていた。

― ダメダメ。これから、この企画をまとめなきゃいけないんだから・・・

柊子は、必死に自分にそう言い聞かせていた。


「あのぉ・・・・」
「原宿有機野菜店」の店先に並んで立ったまま、じゃがバターを食べていた
秀俊と葵の二人の前に、一人の女性が現れて声をかけてきた。
「あのぉ・・、すいません。」
「あ・・・、ゴホ、あ、すいません。いらっしゃい。」
秀俊が、慌てて口の中にあったじゃがいもを飲み下して対応した。
「あ、ごめんなさいね。あの、お向かいの美容院なんですけど・・・」
― なんだ、また杏二のトコに来たのか・・・ 秀俊は、などと思いながら、
「あ、杏二だったら、今日は出掛けてるみたいですよ。」
と、少し素っ気無く答えた。
「そうなんですか・・」
女性は、少しガッカリしたようにそう言った。
「あの、何か伝えておきましょうか?」
「あ、あの、すいません。また来ます。」
女性は、そう言うと、表参道の方へ向けて歩いていった。
「ねぇねぇ、ヒデくん。なんか今のヒト、ワケありっぽくねぇ?」
葵が、ニヤニヤしながら秀俊に言った。
「生意気なコト言ってんじゃねぇよ。」
秀俊は、そう言うと、葵の頭を小突いた。
「っ痛ぁー!」
反撃してこようとする葵をかわしながら、秀俊は葵の言ったことがまんざら的
を外れていないような気がしていた。


「お疲れ様でしたー!」
柊子達、雑誌「Lips」のスタッフを岡部をはじめとする「Hot Stuff」のス
タッフと杏二が店の表で見送っていた。
「今日は、ありがとうございました。 お陰さまで、いいモノが出来そうです。」
柊子が、岡部達に対して礼を言った。
「いえいえ、こちらこそ。 なんだかバタバタしちゃって。」
包帯で吊られた腕を示した岡部が、苦笑しながら応えた。
「あっ、そうそう。柊子さん、ちょっといいですか?」
言いながら岡部が、柊子を皆から少し離れたところへ移動させると、
「あの、今日の取材なんですけど・・、コレ、杏二さんからの依頼なんですけど、
クレジットはウチの店だけにしてほしいって・・」
「えっ?」
柊子は、耳を疑った。そして、杏二の方を見た。
目が合った杏二は、柊子に対して軽く頷いてみせた。
「それから、自分だって判るような写真も、出来れば控えてほしいって・・杏
二さんが。」
「うーん・・・・」
「どうしました、柊子さん?」
何かを察知した千沙が、声をかけてきた。
「うううん。なんでもない。」
千沙にそう答えてから、
「・・わかったわ。それを守っても、充分いい記事は出来ると思うから。」
と、岡部に向けて言った。
「すいません。」
「大丈夫。安心して。それから、またこれからもヨロシクね。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「それじゃあ、皆さん、お疲れ様でした!」
柊子が改めてそう言うと、その場は散会した。
 
千沙達と原宿駅へ向かって歩きながら柊子は、杏二からの依頼について考えて
いた。

― なんで、自分の名前や顔が載っちゃいけないんだろ・・・・?

柊子の頭の中だけでは、その疑問の答えなど得られる筈もなかった。




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by endow2004jp | 2007-11-11 03:36 | 『カリスマ』⑩

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ブログ in ドラマ 第4回作品



月刊女性誌の編集者、町島 柊子(まちじま しゅうこ)は、28歳。
知り合いのスタイリスト、岡部から気になる美容師の話を聞かされた。
その美容師の名前は、沖田 杏ニ(おきた きょうじ)。
杏二は、彼が営む美容院「裏原図書館」の対面にある「原宿有機野菜店」
の店番をするなどして、のらりくらりと過ごしていた。
そんな杏二のもとへと、足をはこぶ柊子。
・・・しかし、杏二とは中々コンタクトが取れず・・・・・




――――――――――――――― 第4話 ―――――――――――――


「あっ! シューコさぁん!」

明治通りと表参道が交差する原宿の交差点。
GAPの真っ白い建物の前で、雑誌「Lips」編集部の専属カメラマン、
三山 はじめ(みつやま はじめ)、通称 “はじめちゃん”は、目の前の横断
歩道を渡ってくる人の波の中に柊子と千沙をみつけ、二人に向かって手を
振りながら大きな声をあげた。

「シューコさぁん! こっち、こっち!」
― わかってるっつーの! まったく、デカイ声で・・・
柊子は、内心そう思いながらも、千沙と共に小走りで彼の元へと向かった。

「ゴメン、ゴメン。待ったぁ?」
「あ、いや、全然。」
“はじめちゃん”は、ファッション中心の女性誌専属のカメラマンという職業
のワリに、ファッションにはあまり気を遣わず、いつも着古したTシャツやダ
ボダボのブルゾンにヨレヨレのジーンズやチノパンといった格好をしている。
今日も、まるで身体にフィットしていないカーキ色のブルゾンと微妙な感じ
のジーンズという出で立ちをしていた。
おまけに、髪の毛は一年を通して坊主頭。
― 今日もこれから美容院での撮影だってのに・・・
それでも、柊子の仕事の依頼は、他の仕事の予定を調整してでも対応して
くれるので、いつも“はじめちゃん”を使うことになる。
編集部内では、“はじめちゃん”は、柊子に気があると噂されていたりするし、
千沙に至っては、“はじめちゃん”のことを“柊子さんの忠実な僕”として見て
いたりするのだが、当の“はじめちゃん”本人は、そんな噂や他人の目など
全く意に介していないようだった。
― ちょっとは、気にしてもらいたいんですケド・・・少なくとも、その外観は・・・
「あ、千沙ちゃん、ソレ何?」
“はじめちゃん”が、千沙の持っている白いビニール袋に目を向けて言った。
「ふふふ、ヒ・ミ・ツ。」
「お芋よ。お芋。千沙って、イモ女だから。」 
千沙の提げているビニール袋の中身は、「原宿有機野菜店」で買ってきた
サツマイモが入っていた。

千沙の提案で“はじめちゃん”と合流する前に沖田 杏二の店「裏原図書館」
へ行ってみた柊子だったが、またしても杏二の店は明かりも点かず、もぬけの
殻となっていた。
そんな「裏原図書館」を前にして二人が立っていると、
「あー、杏二だったら、さっき出掛けていったよ。」
と、二人の背後から、対面の「原宿有機野菜店」の店主が声をかけてきた。
「そうですか。」そう言いながら柊子は、振り返って店主の方をむいた。
「あぁ、キミは、この間の・・・」
「丸川書店の町島です。」
「どうも。 あ、で、こちらは?」
店主が柊子の隣にいる千沙へ目を向けて聞いた。
「彼女は、同僚の村田です。」
「こんにちは。」 
千沙は、得意の“営業スマイル”を浮べながら軽く会釈をした。
「なんだか、沖田さんとは縁がないみたいで・・」 
冗談っぽく柊子が言うと。
「気まぐれなヤツですからね。それに、雲みたく自由なヤツですから。」
「雲、ですか・・・?」
「そう、空を流れる雲。だから、勝手気ままに流れていくし、捕まえることも
出来ない。」
「いいですね、そんな風に暮らせるのって。」
柊子は、本心からそう言った。
「そうだね。」店主も、深く頷くように応えた。
「あ。ところで、今日は、彼女がソチラの方に用事があるみたいなんですよ。」
「え、ウチに? 用事?」
「しゅ、柊子さん・・」
千沙が、少しだけバツの悪そうな顔をする。
「ええ。この間、いただいたサツマイモが凄く美味しくて。で、その話を彼女
にしたら、私も是非って言い出して。」
「へえ。うれしいなぁ。」
「今日も有りますか? この間のサツマイモ?」
「ありますよぉ。さ、どーぞどーぞ。」 
店主は、うれしそうに二人を「原宿有機野菜店」の店内へと導いた。
 
結局千沙は、サツマイモを5本も買った。
柊子は、“一人暮らしなのに、そんなに喰うのか?”などと思ったが、調子に乗
った店主がさらに1本オマケしてくれたので、サツマイモは全部で6本となった。
「原宿有機野菜店」の店主は、ちゃんと話してみると、少しお調子者な部分も
あるが、実に気さくな人物だった。
ただし、柊子には、レジの上に置いたままの自分の名刺の方が気になっていた。

― なんだよ。渡してくれてないんじゃん。アタシの名刺・・・
柊子は、そんな風に思っていた。


「もー、柊子さんてば、口が悪いんだから・・てゆーか、いつも思うんだけど、
“はじめちゃん”って、なんで柊子さんは、“さん”であたしは、“ちゃん”な
のよ?」
「えっ・・・」
「あたしが、オバサンだからよねえ。“はじめちゃん”?」
「えっ、そ、そんなこと・・・」
「なぁ~んてね。さ、それじゃあ、行くわよ。」
柊子が歩きだすと、千沙も一緒に歩きだした。
「あ、ちょっと待って・・・」
足元に置いていた撮影機材の入った大きなバッグを手に持った“はじめちゃん”
が、バタバタと小走りに柊子と千沙の後を追った。


「えぇぇぇーっ!」

柊子の悲鳴にも似た声が、美容院「Hot Stuff」の定休日の店内に響き渡った。

「えぇぇぇーっ! な、何ソレ?」
「Hot Sutff」の入口で柊子達を出迎えた店長の岡部 博之を見た柊子は、
あまりの驚きからそんな声をあげていた。
今日これから、柊子達の雑誌「Lips」の、この冬の髪型を提案する企画の
ためにカットをしてくれる事になっていた岡部が左腕をギブスで固めて首から
吊って現れたのだ。
「何? 何なのソレ? 大丈夫なの?」
「いやぁ、今朝、駅の階段でコケちゃって・・・」
「コケちゃってって・・・」
「面目ない・・・・」
「・・・・・」とっさの事に柊子は、言葉を失った。
岡部は、この店「Hot Stuff」の店長であると同時に、この店ナンバーワンの
スタイリストでもあるのだ。
その岡部が、腕を負傷しているという事は、今日の撮影を中止にするか、他の
岡部よりも下のクラスのスタイリストにピンチヒッターで対応してもらうかし
かなかった。
「あー、で、大丈夫なんですか、今日の撮影?」
固まっている柊子の隣で、千沙が冷静に聞いた。
「・・そうそう、どうなの?」
我に返った柊子も、岡部に問いただした。
「まあ、こんななんで・・」
「こんななんでって・・・」
「あ、でも大丈夫。とっておきの代打に来てもらってますから。」
「代打・・・って?」
怪訝な表情で聞き返した柊子に岡部が、無事な方の右手で店内を示して、
「彼に来てもらえましたから。」と、言った。
柊子をはじめ、千沙と“はじめちゃん”が目を向けたその先には、既に「Hot
Sutff」のスタッフと共に準備を始めている杏二の姿があった。
「えっ! あれ、杏二さんじゃない!」
「そう。今日、オレがこんなんなっちゃったんで、試しに連絡してみたら、何
も予定入ってないっていうんでお願いして来てもらったんです。」
「タナボタ・・かも・・・」 
柊子は、思わずそう呟いた。
「タナボタって?」 
“はじめちゃん”が、不思議そうに聞き返した。
「棚からぼた餅よ!」
「へ?」
「へぇー、あの人が、沖田 杏二さんなんですね?」
「へ、えっ? オキタ・・え??」
“はじめちゃん”が、今度は千沙の言葉にひっかかった。
「いいから! “はじめちゃん”早く準備して! 今日、撮影ミスったら承知
しないからねぇ!」
そんな柊子の激に、“はじめちゃん”は、何だかよく解らないまま準備にとりか
かる事になった。 
そんな“はじめちゃん”に、
「あのね、あの沖田っていうスタイリストが、柊子さんがこのところ追いかけ
てて、中々会えなかった人なのよ。」と、千沙が耳打ちをした。
「ふぅ~ん。それで、柊子さん急に気合が入ったんだ。でも、あの人そんなに
凄いのかなあ?」
「さあ、実力の程は、柊子さんも知らないみたい。でも、ここのスタッフが岡
部さんも含めて皆、あの人をお手本にしてるみたいよ。」
「へえ。そうなんだ。」
そんな風に、千沙と“はじめちゃん”がヒソヒソと話していると、
「ほらっ、ソコ! さぼってないで、準備してっ!」 
再び柊子の激が飛んだ。
「岡部君、最高の代打だわ。」 
柊子が、今度は岡部に向かってそう言った。
「でしょう、柊子さん。」
「うん。 キミが怪我して正解!」 
「って、ひっどいなあ。あ、でも、実は僕も楽しみなんですよ、杏二さんが雑誌
の髪作るのってスッゴイ久し振りだから。」
「そうなんだ・・・、ホント、楽しみだわ・・・」 
柊子は、そう呟いていた。



「こんにちは。」

「原宿有機野菜店」の店頭で店主の片桐 秀俊は、商品の陳列を直していた。
「こんにちは。」
秀俊が、声のした方へ顔をあげると、そこには対面の杏二の店「裏原図書館」
とその2階の杏二の住まいの大家である美津濃 弥生が立っていた。
「あぁ、どうも。コンチワ。」
「今日は、杏二君いないみたいね。」
「ええ。今日は、出掛けていきましたよ。」
「そうなんだぁ。ざぁ~んねん。」
「いつものことですから。」
「そうね。せっかく、暇つぶしに寄ってみたのにな。」
「ハハハ・・・暇つぶしの相手には、もってこいですから。」
「しょうがないな。じゃあ、せっかくだから“お芋さん”貰っていこうかしら。」
弥生が、サツマイモを指しながら言った。
「あ、はい。あいりがとうございます。何本にしますか?」
「何本残ってるかしら?」
「えぇーっと、3・4・・5、5本しかないですね。」
「じゃあ、5本ともいただいていくわ。」
「はい。ありがとうございます!」
秀俊は、そう応えながら、
― 今日は、サツマイモがよく出るなぁ・・しかも、杏二に会いに来た女ばっかり・・・
などと、考えていた。



美容院「Hot Sutff」の店内では、モデルの女性も衣装のスタイリストも揃い、
雑誌「Lips」の撮影の準備が着々と進められていた。
「あ、そーだ。」
柊子の側に来た岡部が、急に声をあげた。
「柊子さん、杏二さんにまだ紹介してませんでしたよね?」
「・・・うん。」
「あ、じゃ呼んできますよ。」
「あ、いい、いい。準備の邪魔しちゃ悪いから、アタシの方から行くわ。」
「そうすか?」
「うん。」
岡部は、柊子たちを伴って店内を杏二の元へ移動すると、それぞれを簡単に紹
介した。
「あ、キミは・・」柊子を見た杏二が、そう言った。
「この間は、急にお邪魔して、ゴメンナサイ。」
「あ、いや。こっちこそ、なんかバタバタしちゃって・・」
「今日は、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
「杏二さんには、一応イメージとかは伝えてありますんで。」
と、岡部が会話に入ってきた。
「え? なんだよ、好きに切っていいって言ったじゃん!」
岡部の言ったことに杏二が反応する。
「あ、だから、その・・イメージの範囲内って事で・・・」
岡部は、少し言い淀んだ。
そこへ、二人のやり取りを聞いていた柊子が、
「あ、あの。沖田さんの・・杏二さんの好きなように切っていただいていいです。
それでお願いします。」
と言い、二人に頭を下げた。
「うん。じゃあ、わかった。やらせてもらうよ。」
柊子に対して杏二は、そう応えてみせた。


「たーだいまぁー!」
そんな声をあげながら、学校から帰ってきた片桐 葵が「原宿有機野菜店」
の狭い店内に入ってきた。
「おう。おかえりっ。」
「ねえ、ヒデくん、おなか減った。お芋食べたいなぁ!」
帰るなり、そんなことを言う娘の葵を見た秀俊は、
「・・なんだ、お前もイモか?」と、呟いた。
「えっ? 何?」
「ほら、イモ。」
そう言って秀俊が芋を一つなげてよこした。
見事にキャッチした芋を見た葵は、ムッとした顔になると、
「何ィコレ? ジャガイモじゃん!」
「お前には、ソレの方がいいからさ。」
「何でよ?」
「オナラ。されたら、臭いから・・・」
「馬鹿っ!」
そう言うと、ジャガイモを秀俊に投げ返して、店の奥へと消えていってしまった。
「つーか、サツマイモ、もう無いし・・・」
ジャガイモを手にした秀俊は、そう呟いていた。


岡部や千沙達が離れていってからも、柊子は暫く杏二の近くに立っていた。
柊子は、沖田 杏二という気になるスタイリストが、準備をする様を見るとも
なく見ていた。
「ねえ・・」
そんな柊子に杏二が、小声で話かけた。
「ねえ、昨日のアレは、彼氏?」
「え?」
柊子は、杏二の突然の問いかけに、何の事か解らずに聞き返した。
「ラーメン屋で、一緒にいたでしょ?」
「あっ!」
柊子は、思わず声をあげていた。
柊子がふと見ると、杏二はニヤニヤしながら右手の指で「OK」のサインを出
していた。
― げっ、気が付いてたんだ・・・


そんな中、定休日の「Hot Sutff」の店内では、いよいよ沖田 杏二によるカッ
トが始まろうとしていた・・・




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by endow2004jp | 2007-11-04 02:37 | 『カリスマ』⑩

トランスメディア提供アイコン01ブログ in ドラマ 第4回作品 『カリスマ』 ―第3話―

ブログ in ドラマ 第4回作品



月刊女性誌の編集者、町島 柊子(まちじま しゅうこ)は、28歳。
知り合いのスタイリスト、岡部から気になる美容師の話を聞かされた。
その美容師の名前は、沖田 杏ニ(おきた きょうじ)。
彼の営む美容院「裏原図書館」へと、足をはこぶ柊子。
しかし、店の明かりは消えていて・・・




――――――――――――――― 第3話 ―――――――――――――


―この人が、沖田 杏二さん?


「あなたが、沖田 杏二さんなの?」
「え? そ・・そうですケド・・・」
杏二は、初対面なのに何故か自分の名前を知っている柊子に対して、やや不思
議そうにしながら応えた。
「オレに何か用? あぁ、カットの予約?」
柊子は、目の前にいる・・、昨日ここへ足を運んだ時にこの店・・「原宿有機野
菜店」の店内にいたこの男性が、自分の会おうとしていた・・、会いたかった
沖田 杏二である事を知り軽く舞い上がってしまっていた。
「あ、あの・・、そう・・じゃなくて・・・」
「来週の火曜日以降なら空いてる日もあるケド、あ、でも店に戻ってカレンダ
ー見てみないと分かんないなぁ・・」
「そ、そうじゃなくて・・」
柊子が、そこまで言いかけた時、店の、「原宿有機野菜店」の奥で何か、ガラス
や陶器のようなモノが割れるような音が聞こえた。
「何だ?」杏二は、音のした方へ振り返った。
「・・・・?」柊子も、店の奥へ目を向けた。
と、そこへ、前など全く見ないような前傾の姿勢で女の子・・、葵が飛び出し
てきた。
葵は、あまりの勢いで飛び出してきたので、店先で杏二と向き合っていた柊子
とブツかってその場へ尻餅をついた。
「オォォッ!」柊子が小さく声をあげた。
「オ、オイ、葵、どうした?」その様を見ていた杏二が心配そうに声を掛けた。
「・・え? だ、大丈夫?」 
柊子も心配そうに声をかけたが、顔を上げた葵は、二人へにらむような目を向
けると、立ち上がって街の方へと走って行ってしまった。
「オ、オイ! 葵っ!」
杏二は、チラっと店の中へ目を向けてから、
「悪い、また今度にして!」と、柊子に言うと葵を追いかけて走って行ってし
まった。
「え・・・、今度って・・・?」
柊子の歯切れの悪い呟きは、既に走り去ってしまった杏二に届く筈もなかった。


「・・・って、行っちゃった・・・・」
柊子は、「原宿有機野菜店」の店先にひとり、ポツンと取り残されていた。
「しょうがないかぁ・・・・」
暫くの間、杏二が走り去って行った方をボーっと見ていた柊子は、そう呟くと
「原宿有機野菜店」の誰もいない店内へと入ってみた。
「原宿有機野菜店」の店内には、色々な野菜が木の箱に入れられて並べられて
いた。
決して広い店ではなかったが、店の外観から想像したのよりも遥かに豊富な数
の野菜が置かれていることに柊子は、少なからず驚いていた。
大根やニンジンなど根菜類は、どれも土がついたままビニールの袋などにも入
れずに、そのまま置かれていた。
店内の照明が蛍光灯ではなく、ハダカ電球が二つだけというのも、店に独特の
雰囲気を醸し出していた。
誰もいないのをいいことに、店内をじっくりと見回した柊子は、
「あのぉ~、すいませーん!」と、店の奥へ向かって声をかけた。
店の奥は、住居となっているらしかった。
柊子の暮らす実家の「町島酒店」と同じだ。
「すいませーん!」何の反応も無いので、もう一度声をかけた。
すると、店の奥からさっき柊子がここへ来た時に杏二と話していた男性が出て
きた。
男性は、さっき着ていた遠目にみても完全に冬物の黒い皮ジャンではなく、ネ
イビーカラーのフライトジャケットをTシャツの上に軽く羽織っていた。
「いらっしゃい。あ、すいません。誰もいなかったですか?」
「あ、あの、沖田さんなら、女の子を追いかけていっちゃいましたけど・・」
「あ、そうか・・。杏二が追いかけてくれたんだ・・・」
「ええ。」
「あ、すいませんね。で、何にします?」
男は、店内の野菜へ目を向けながら柊子に聞いてきた。
柊子のことを、客だと思ったらしい。
「あ、あの、そうじゃなくて。私、こういう者なんですが・・」
柊子は、そう言いながら、その男性に名刺を差し出した。
「丸川書店。出版社の方ですか。」受け取った名刺を見ながら男が言った。
「ええ。実は、沖田さんにお会いしたくて来たんですが、沖田さん走って行っ
ちゃったものですから・・・」
「あー、すいませんね、なんかドタバタしてて。さっきの“アレ”、私の娘なん
ですよ。今ちょっと取りこんでたもんで。アイツには・・、杏二には私の代わ
りに追いかけて行ってもらったようなもんで。アオイは・・・、あー娘は、ア
イツの方がいいっていうか・・懐いてるんですよ。杏二に・・・で、なんでし
たっけ?」
「あ、で、沖田さんに、“また今度”って言われたんで・・、その名刺を渡して
おいていただけないかと思って、お邪魔したんです。」
「コレをね。OK。お安いご用ですよ。」
そう言うと、その男性は、柊子の名刺を小ぶりなレジの上に置いた。
「じゃあ、すいません。お願いします。」
「はいよ。」男性は、笑顔でそう応えた。
柊子は、そのまま店を出ようとした・・・が、思い直して振り返ると、
「あの、やっぱり、そのサツマイモいただいていこう・・かな。」と、言った。
「はいよ。幾つにしますか?」男性が、より一層の笑顔で柊子を迎えた。
その笑顔につられて、柊子の顔にも笑顔が広がっていた。


「はいよ。」
葵が声のした方を見上げると、缶ジュースを差し出した杏二が立っていた。
葵は、キャットストリートの片隅で、道路を仕切るガードレールにちょこんと
腰掛けていた。
「・・ありがとう・・・」
言いながら、杏二が差し出したジュースの缶を受け取った。
杏二は、葵の隣に腰掛けると、自分の分の缶コーヒーを軽く振ってからプルト
ップを起こして開けた。
「ねえ、杏二・・」
「・・ん、何?」 コーヒーを飲みながら杏二は、相槌を打った。
「アタシさあ、ヒデくんをさあ、早く自由にしてあげたいんだよ・・・」
「ん、・・自由って?」
「だからさあ、ヒデくんアタシに気ィ使って、再婚とかしないみたいだし・・・
だから、アタシが早く一人前になって、ヒデくんを安心させたいし、ヒデくん
を自由にしてあげたいんだ・・」
「そっか。」
「うん。まだ、早いかな、こんな事言うの?」
「そうだな。」
葵の母親と秀俊は、葵がまだ幼稚園に通うよりも前に離婚していた。
秀俊は、それ以来、男手ひとつで葵を育ててきた。
「まだいいんじゃないかな・・まだ、アイツの前では子供のままでも。もう少し、
父親役をやらせてやれよ。」
「・・・・・・」
「葵が、あんまり早くに大人の女になっちゃうと、アイツ、どうしていいか判
らなくなっちゃうよ。きっと。」
「そうかなぁ・・・」
「そんな風に、オレは思うな。」
「難しいね、家族って。っていうか、男のヒトって。」
「なぁーに、大人びた事言ってんだ。」
杏二は、笑いながらそう言うと、葵の頭を軽く叩いた。
葵も笑いながら、肩をすくめてみせた。



壁面に据付られた大きな鏡を丁寧に乾拭きすると、店内の掃除はひとまず片付
いた。
月曜日。
杏二は、朝早くから自分の店、「裏原図書館」の店内を掃除していた。
白い塗料を荒く塗ったような仕上げの白木のフローリングに、白いクロスを貼
った壁面。
店の一番奥には杏二の住まう2階へと続く階段があり、その階段の前が小さい
レジカウンターだ。
レジカウンターの脇には、お客様の上着や荷物を入れておく為の、縦長のロッ
カーが置いてある。
店内には、カットをする際に使う椅子が一脚、シャンプーをする時の椅子が一脚、
それから事前のカウンセリングの時に使う木製の椅子が一脚。
杏二は、よくこの椅子を店の外に出して、これに座って煙草を吸ったりしている。
それから、杏二が作業する時に座る、キャスター付きのストゥールが一脚。
待合スペースには、3人は掛けられる大きさのパステルグリーンのソファーが
ひとつと、ソファーの前に小さなガラステーブル、ソファーの対面には、その
ソファーと同じ位の横幅で腰位の高さの白木のボックスが置いてある。
ボックスの中には、多数の本が入っている。
髪型の雑誌やファッション誌、モノ系の雑誌なども入れられてはいるが、それ
らはごく僅かでそれ以外は写真集が入れられていた。
写真集は、風景や静物の写真のものばかりだ。
漫画本は無く、週刊誌もほとんど無い。
週刊誌はどれも、ティーンが読むような情報誌で、それらは全て葵が置いてい
ったものだった。
ボックスの反対側は、ローボードのようになっていて、その中にパーマやヘア
カラーに使う溶剤などが入れられていた。
鏡は、カットなどの作業用の椅子の前の壁面と、その反対側の壁面に一枚ずつ、
据付られていた。
どちらも、幅1メートル20センチ×高さ1メートル30センチで、床から50
センチ程の高さから取り付けられていた。
どちらの鏡にも、木製の額縁のようなフレームがつけられていた。
入口のガラスがはめられた白い木製のドアの上には、濁った真鍮色のベルが付
けられていた。

杏二は、掃除の仕上げとして最後に乾拭きで磨いたカウンセリング用兼、姿見
の鏡を少し離れた位置に立って、満足そうに見つめていた。
やがて杏二は、すぐ側に置いてあったカウンセリング用の木製の椅子を片手に
持つと、そのまま店の外へと出た。
店の表、窓の前にその椅子を置くと、杏二はそこに腰掛けて煙草を吸いはじめた。
「おっ、なんだ、今日もヒマそうだな!」
杏二が店の表へ出てきたのを対面の「原宿有機野菜店」の中から見ていた店主
の秀俊が声をかけた。
「おかげさまで。」
「あ、そうそう、この間は、ありがとな。」
「あー、そういえば、どうなりました? 葵とは、仲直り出来ました?」
「うん、まあ。なんとなくな。」
「なんとなくか・・。まあ、とりあえず良かった、かな。」
「ま、そうゆうこと。」
杏二の吐き出した煙がよく晴れた秋の空へ向けて流れて消えていった。


柊子は、片岡 優一とパブから出てきた。

ふたつ年上の彼、優一と柊子は、かれこれ3年程の付き合いとなる。
柊子が以前、編集部に所属していたインテリア関係の雑誌の取材で訪問した先
の住宅設計事務所の営業が優一で、仕事で接しているうちに・・というよくあ
るパターンで付き合い始めたのだった。
おたがいに仕事が忙しい柊子と優一は、月に3回会えれば良い方だった。
「あー、ちょっと酔っ払っちゃったかなぁ、アタシ。」
「バーカ、あの位で酔うなよ。」
「あ、いま、バカって言ったでしょ? バカってぇ!」
「言いましたっけ? そんなこと。」
「言ったわね。」
「あー、んな事よりさあ、腹減んねぇ?」
「あー、ちょっと減ったかも。」
「じゃ、行きますかぁ?」
「何?」
「飲んだ後といえば・・」
「飲んだあとといえば・・・なに?」
「やっぱ、ラーメンでしょ!」
「おっ! そう来たか。」
「どう? 行くの?」
「行く! イクイクゥ! 大賛成!」
二人は、電車に乗って、最近優一が見つけたというお気に入りのラーメン屋へ
と向かうことにした。
新宿から乗った山手線を代々木で降りた二人は、原宿方面へ少しだけ徒歩で移
動した。
「ここ?」
「そう、ここ。 シンプルだけど、旨いんだ。」
店の外観も、赤地に白抜きの暖簾に書かれた「十番ラーメン」という店名ま
でもがまさに“シンプル”だった。
暖簾をくぐって、引き戸を開けて店の中へ入った二人を待っていたのは、これ
も“シンプル”な雰囲気の店内だった。
メニューも、“シンプル”に、しょうゆと味噌の二種類のラーメンと缶ビールし
かなかった。
二人は、ふたつだけあるテーブル席の一つに席をとると、しょうゆラーメンを
注文した。
やがて、運ばれてきたラーメンは、優一の言うように“シンプル”だが確かに
旨かった。
二人がしょうゆラーメンの後半戦と向き合っていると、引き戸を開ける音とと
もに一人の客が入ってきた。
店の店主らしき男性が、常連らしいその客に声をかけた、
「おっ、いらっしゃい! キョウちゃん。」
なんとなく顔をあげて、その“キョウちゃん”と呼ばれた客を見た柊子は、思
わずラーメンを吹き出しそうになった。
「だから、その“ちゃん”は、よせってば・・・」
そう言いながらカウンターの端に腰掛けたのは、間違いなく沖田 杏二だった。
「あー、オレ、味噌ね。 味噌。 あ、あとビール。」
そう言って注文している杏二は、柊子のことに全く気付かないようだった。
「・・・? あ、どうかした?」
急に落ち着きのなくなった柊子に、優一が不思議そうに声をかけた。
「うううん。 なんでもない。・・お、おいしいねコレ。」
精一杯、平静を装って柊子は、応えてみせた。
「だろっ。オレの中じゃ、ここ数年でナンバー1なんだよね。」
柊子の言葉を真に受けた優一が、嬉しそうな声をあげた。
柊子の感心は、そんな優一をよそにカウンターに座った杏二の方へと向けられ
ていた。
― 優一が一緒じゃなければ、声かけたのにィー
柊子は、心の中でそう叫んでいた。

結局、柊子は、優一と仲良く何事もなく店から出たのだった。
杏二は、その時まだ味噌ラーメンをすすっているところだった。


「えーっ! じゃあ、3回もニアミスだったんですかぁ?」
「ニアミスって、・・・まあ、その通りかぁ・・・ハァ・・・」
あくる日、取材の為に原宿へ来ていた柊子と千沙の二人は、そんな会話をして
いた。
二人は、これから編集部専属のカメラマン、三山 はじめ(みつやま はじめ)
通称“はじめちゃん”と合流してスタイリストの岡部 博之が店長を務める美
容室「Hot Sutff」へ向かうところだった。
「ねえ、柊子さん。まだちょっと時間ありますよねぇ?」
「ん? あー、あるけど。」
「これからちょっと行ってみませんか? その杏二さんっていうスタイリスト
のトコに。ね、岡部さんのトコ行く前に、ちょっとだけ。」
「ええぇ、でも、“はじめちゃん”と待ち合わせだし・・・」
「大丈夫ですよ、“はじめちゃん“なら、柊子さんの言うことには、絶対服従だし。
それにまだ、30分も時間ありますよぉ。ね。」
「って、アンタ。もしかして、サツマイモが買いたいだけじゃないの?」
杏二には会えなかったけど、「原宿有機野菜店」で買ったサツマイモは、すごく
美味しかった話を千沙にしたばかりだった。
「しょうがないなぁ。 行ってみるだけだからね。」
「はい!」 千沙は、いつになく弾んだ返事をした。

柊子と千沙の二人が、石畳風の路地を歩いていくと、遠目に見ても「裏原図書館」
の店内に明かりが点いていないことが判った。
「ほらぁ、またやってない・・・」
「あ、でも、向かいのお店にいるかもしれないんですよね?」
「まあ、そうだけど・・・」
ズンズンと歩いていく千沙を追うようにして、「裏原図書館」の前へとやってきた。


「裏原図書館」は、案の定、営業していなかった。



■ Theme Tune is 「Overnight Sensation」&「Love Of A Lifetime」
by FIREHOUSE



STORY & Photo by 陳 笈

本作『カリスマ』の登場人物などの設定資料を近日アップします。
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by endow2004jp | 2007-10-28 03:52 | 『カリスマ』⑩

トランスメディア提供アイコン01ブログ in ドラマ 第4回作品 『カリスマ』 ―第2話―

ブログ in ドラマ 第4回作品



月刊女性誌の編集者、町島 柊子(まちじま しゅうこ)は、28歳。
取材の交渉で訪れた美容院で、スタイリストの岡部から気になる美容師の話
を聞かされた。
その美容師の名前は、沖田 杏ニ(おきた きょうじ)。
彼の営む美容院「裏原図書館」へと、足をはこぶ柊子。
しかし、店の明かりは消えていて・・・




――――――――――――――― 第2話 ―――――――――――――


すっかり手に馴染んだ、マーベラス型のオイルライター。
そのクロームメッキが施されたボディが、秋の日差しを受けて鈍く輝いた。
沖田 杏二は、慣れた手つきで口の端にくわえたマールボロにオイルライター
の火を移した。
「原宿有機野菜店」の店先で、店の中から持ち出した椅子に座った杏二は、秋
の高い空を見上げながら煙草を吸っていた。
杏二の吐き出した煙がよく晴れた青い空へ向けて流れ、吸い込まれていった。
「杏ニィ、またそんなトコでタバコ吸ってんの?」
店の中から出てきた片桐 葵が店先にいる杏二を見つけて、15歳の高校生と
は思えない大人びた口調で声を掛けてきた。

土曜日の朝。
今日が休みの葵は、いつになくオシャレに着飾っていた。
葵が、今日はデートだと言っていたことを杏二は、思い出した。
「ふぅーん。 気合入ってんじゃん。」
「デート、だからね。」
「ねえ、杏二さあ。ヒデくんからバイト代もらった方がいいんじゃない? 
いっつも店番やらされてるんだからさあ。」
葵は、自分の父親のことを何故かいつも“ヒデくん”と呼ぶ。
父親である秀俊は、それを否定しない。
それどころか、むしろ喜んでそう呼ばせているようですらあった。
「いいんだよ、どうせ暇なんだし。それより、お前ソレ、グロス塗り過ぎなん
じゃねぇの?油ダクダクのカルビ喰ったみたいになってんゾ。」
「えぇ! ホントにィ? ヤバイこれ?」
「ああ。ちょっとやり過ぎだろ。ちょっと来てみィ。ほら。」
葵が、なんのためらいも無く杏二の方へ顔を寄せた。
杏二の指先が、葵の唇から余分なグロスをぬぐい取った。
「まあ、これくらいならOKだろ。」
「サンキュー、杏二。」
「おう。ところで、もう出掛けるのか?」
「うん。あ、ヤバ、もう行かなきゃ! じゃあね杏二。」
「おう。健闘を祈ってるぞ。」
元気に手を振りながら、葵が小走りに出掛けていった。

葵が出掛けていくと、店の影から「原宿有機野菜店」の店主が姿を現した。
「何やってんの? お前。」
片桐 秀俊は、ベースボール・キャップを目深に被り、真っ黒いサングラスを
掛けて、真冬でもないのに黒の皮ジャンを着込んでいた。
「これから、ターゲットを追跡する。あとは頼んだゾ、杏二。」
「追跡って、葵に付いていく気かよ? つか、ソレ、変装のつもりかよ?」
「ああ、そうだ。完璧だろ。それじゃあな、杏二。」
デートに出掛けた娘を追いかけて、何故か探偵気取りの父親も出掛けていった。
「・・・・・。つか、店やる気あんのかよ? ・・・って、そりゃ、オレもか・・」
杏二は、ひとりごちつつ苦笑していた。

「あれ、柊子。なんだ今日も仕事かぁ?」
土曜日だというのに、朝からバタバタと階段を駆け下りてきた柊子に、居間で
一年中出しっぱなしになっているコタツに入ってテレビを見ていた兄の雅夫が
声をかけた。
「えっ、ああ、うん。ホントは休みなんだけどさあ・・」
「大変だな、OLさんも。」
「まあね、しょうがないよ。」
「あ、ねえ、柊子ぉ、朝ゴハン食べるでしょぉ?」
台所で食事の支度をしていた兄嫁の佐千絵が、兄妹の会話に割って入った。
佐千絵は、兄嫁とはいえ元々は柊子の職場の同僚だったので、兄の雅夫よりも
柊子の方が付き合いが長い。
「あ、ゴメン、時間無いからいいや。」
言いながら、柊子は居間から隣接した店の中を通って飛び出していった。
「おいコラ、店ん中突っ切るなって言ってんだろう・・が。って、もう行っち
ゃったよ。」
雅夫が、後半は独り言のように言った。
柊子の住まいは、東京都と埼玉県の境を、埼玉県側へ越えてすぐの町で親の代
から続く酒屋で、両親が半ば引退した今は、その店を兄の雅夫が継いでいた。
柊子の両親も健在だが、雅夫が結婚してからは同じ敷地内の離れに住まいを移
し、古くからの重要な取引先との商談や、急な店番の時意外はほとんど店に出
てこなくなっていた。
「柊子、忙しそうね。」
「なんかな。アイツは、まだ当分ココに住んでそうだな・・」
「ホントは、ずっといて欲しいクセに。」
佐千絵は、雅夫をからかうように言ってみせた。

「あれ、また杏二くんが店番してるんだ。」

「原宿有機野菜店」の前の路地を通りかかった美津濃 弥生(みずの やよい)
が店先で椅子に座ったまま居眠りをしていた杏二を見つけて声を掛けた。
美津濃 弥生は、「裏原図書館」の店舗と、その二階の住居部分を格安で提供し
てくれている大家だ。
「はい、どうぞ。」
そう言いながら弥生は、スターバックスのテイクアウトのカップを杏二に渡した。
「あー、どーも。」
「さっき、あなたがココにいるのが見えたから買ってきたの。」
弥生は、いつも高級そうでも派手でもないが、とても綺麗に着飾っていた。
杏二は、その品の良い服の着こなしや身のこなしに、いつも感心していた。
「あれっ、今日予約入ってましたっけ?」
弥生は週に一度、杏二に髪の手入れとメイクをしてもらっている。
「違うわ。ちょっと通りかかっただけよ。」
「あぁ、良かった。」杏二は、苦笑いを浮かべながら言った。
「この辺りって面白いでしょ。表通りは凄く賑ってるのに、少し裏に入るとこ
んなに静かなんだから。」
確かにそうだった、表参道や明治通りの喧騒はすぐそこなのに、ほんの数ブロ
ック離れたでけで、辺りはとても静かだった。
「そうですね。」
「この雰囲気がいいのよねぇ・・。あ、それじゃあね。杏二くん、たまには自
分の店の番もしなさいね。」
「はぁい。あ、コレ、どうも。」
さっき手渡されたコーヒーのカップを掲げながら杏二が言うと、すでに背を向
けて颯爽と歩き出していた弥生は、右手をヒラヒラと上品に振りながらそれに
応えた。


「なんだ、町島。休日出勤か?」
月刊女性誌「Lips(リップス)」の編集長、土屋 卓巳(つちや たくみ)
がふらっとオフィスに現れた柊子を見て声をかけた。
「ちょっと、やっときたい仕事があって。あ、でも、午後には帰ります。」
「そっか。ま、がんばれや。」
この土屋という編集長は、基本的にはスタッフの好きなように仕事をやらせて
くれるので、自分の好きなように仕事を運びたい柊子にとっては、理想に近い
上司だった。
「あ、そういえば、村田に聞いたんだけど、町島、お前、沖田 杏二とコンタ
クト取ろうとしてるんだって?」
― なんだ千沙のヤツ、“てきとうに”とかって言ったのに、全部報告したな・・・
などど、考えながらも、
「あ、でもまだ、お会いできてないんですけど。」
「ま、難しいとは思うけど、やってみろや。もし、うちの仕事受け付けてくれ
たら面白いだろうし。」
「あ、はい。 ・・・って、編集長、知ってるんですか、沖田 杏二の事?」
「あー、昔ね。もう10年くらい前の話だよ。」
「もし、よかったら話聞かせてもらえませんか?」
「え、杏二の事?ま、まあ、オレの知ってる範囲でよければ。」
― ラッキー! 千沙のおかげで、少し手間が省けた。
「是非、お願いします。」

編集長から聞き出せた沖田 杏二の経歴は、こんな感じだった。
― 今から10年程前、丁度世間が“カリスマ美容師”をもてはやしていた頃に、
表参道に当時業界でトップといわれた一件の美容院があり、その店に3人のト
ップ・スタイリストがいて、その中でも特に“天才”として雑誌や芸能界でも
指名が掛かりまくっていたのが沖田 杏二、その人だった。
まだバリバリの編集者として活動していた編集長は、この頃に何度か杏二と仕
事をした事があったらしい。
当時の印象は、「口数は多くなく、人気スタイリストだからと、決して天狗にな
ることもなく、真面目にストイックに仕事をするタイプだった。」という。
それでも、その美容室が突然、店舗数の拡大に失敗して倒産してしまい、杏二
もしばらくはフリーのスタイリストとしてファッションショーのスタイリスト
などで活躍したものの、知らぬ間に業界から消えていったという。
一説では、神奈川の海の側で細々と個人の店をやっていた、と云われていた・・・
そんな杏二が、2年程前にふらっと表参道へ帰ってきたらしい・・・

― と、いうのが、編集長が話してくれた内容だった。

編集長の話を聞いた柊子は、より一層、杏二というスタイリストに会ってみた
くなっていた。

「あ、おかえり・・・」
娘の葵のデートを追跡しに出掛けていた「原宿有機野菜店」の店主、片桐 秀俊
が帰って来たのは、午後3時を少し回った頃だった。
「・・・た・・ただいま・・」
秀俊は、出掛ける時の勢いは、何処へやら、何故かすっかり肩を落としてトボトボ
と、帰ってきた。
「なんだよ、どうした?」
「・・バレた。オレの完璧な尾行が葵のヤツにバレたんだよ・・・」
「で?」
「で・・・、で、追い帰された。」
「・・プ、」杏二は、堪えきれずに吹き出した。
「・・・笑うなよ・・」

秀俊の説明によると、
原宿の駅前で、葵が男子、秀俊の言うところの“ヤロー”と落ち合い、山手線で
渋谷へ移動して109などをブラブラするまでは良かったのだが、そのあと二人
が喫茶店に入ったのを追って秀俊も店に入ると、離れた席に座っていたにもか
かわらず、トイレに行くふりをして席を立った葵が、秀俊の席へ来て、
「ちょぉっと、ヒデくん! 何処まで着いてくるつもり? いいかげんにして
よね!」 
と、一喝されてしまったらしいのだ。
最初は、ずっと上手く尾行出来ていると秀俊は思っていたのだが、実は、かな
り前から葵にはバレていたらしかったのだ。

というワケで、「原宿有機野菜店」の店主は、娘に一喝されたのと、自分の尾行
がバレたのとで、酷く落ち込んで帰ってきたのだった。
「・・つーワケで、オレ、仕事やる気になれないから、も少し店みてて・・・」
それだけ言うと、秀俊は店の奥の居住スペースへと入っていってしまった。
「なんだよ、結局仕事したくねーだけじゃん・・・せっかく、どんな“ヤロー”だった
か聞こうと思ったのに・・・」
杏二は、そんな風にひとりごちていた。

「あのぉ、すいません・・」


その日の午後、編集長から沖田 杏二に関する予備知識を得ることが出来た
柊子は、ふたたび表参道の町並みを歩いていた。
表の通りは、土曜の午後ということもあり、多くの人で賑っていたが、一歩裏
通りの路地へと入ってしまうと、その喧騒が嘘のように、街は静かな街へとそ
の表情を変えた。
一度歩いて来た道を忘れないことには自信がある柊子は、岡部が描いてくれた
地図を見ることもなく、迷わずに石畳のような細い路地へと入ってきた。
程なく、柊子の視界に沖田 杏ニの「裏原図書館」が入ってきた。
しかし、店内が望める程の近さまで来た柊子には、「裏原図書館」の店内に今日
も明かりが点っていない事が判った。
― 土曜日だっていうのに・・・、一体、いつ来たら“彼”に会えるの・・・?
柊子は、心の中でそんな風に少し毒づいてみた。
がっかりしながら、「裏原図書館」の路地を挟んだ対面に目を向けると、その店
の店先でなにやら二人の男性が立ち話をしていた。
一人は、長めの茶髪にウエスタン系のデザインを施した白っぽい細身のシャツ
に洗いざらしたジーンズを履き、もう一人は、伸びっぱなしのスポーツ刈のよ
うな髪型に真冬のようにゴツいデザインの黒い皮ジャンを着ていた。
皮ジャンを着た方の男性は、やがて店の奥へと消えていき、白っぽいシャツを
着た方の男性だけがその場に残った。
柊子は、思い切ってその残った方の男性に声を掛けてみることにした。
「あのぉ、すいません・・」


「・・・せっかく、どんな“ヤロー”だったか聞こうと思ったのに・・・」
杏二は、そんな風にひとりごちていた。

「原宿有機野菜店」の店先にいた杏二が声を掛けられたのは、そんな時のこと
だった。
「あのぉ、すいません・・、ちょっとチョット伺いたいことがあるんですが・・」
「え、あ、何でしょう?」
杏二が振り返ると、そこには丈の短めの白っぽいジャケットに濃いブルーのス
キニー・ジーンズを着合わせた女性が立っていた。
― “どう見ても「原宿有機野菜店」の客といった雰囲気ではない・・”
と、杏二は思い。 

― “どう見ても有機野菜の店の店員といった雰囲気じゃない”
と、柊子も感じていた。

「あっ、あのぉ、お向かいのお店なんですケド、いつ営業されているか教えて
いただけませんか?」
― “あ、なんだオレの客か・・・”と、杏二。
― “あちゃー、その前にこの人がココの店の人か聞かなきゃじゃん・・”
と、柊子。

「いつ営業っていうか・・・、予約が入った時?かな・・」
「予約が入った時・・ですか・・」
「あ、てゆうか、気が向いた時・・とか・・・」
「はあ?」
― “なんなの、この人?”と、これは柊子の心の中。
― “何言ってんだ、オレ?”で、こっちは、杏二の心の中。
と、その時、えらく不機嫌そうな葵が帰ってきた。
「なんだ、杏二、まだいたんだ?」
「なんだって、なんだよ!」
杏二は、言い返したが、葵は、そんなことなどお構いなしに店の奥へと消えて
いった。
「・・ったく、どうなってんだ、ココん家のヤツらは・・・」
杏二が、また独りごとを言った。
その傍らで、杏二と葵のやりとりを聞いていた柊子が目を丸くして立っていた。
「・・・あ、ゴメン、ゴメン。 で、なんだったけ?」
杏二が、会話を戻そうとすると、
「キョージ・・あなたが、沖田 杏二さん?」
そう、柊子が呟いた。
「え? 何?」
「あなたが、沖田 杏二さんなの?」
今度は、はっきりと聞き取れるように柊子が言った。
「え? そ・・そうですケド・・・」
不思議そうにする杏二をよそに、柊子は驚きと喜びがゴチャゴチャに混ざった
ような不思議な感情に浸っていた。


■ Theme Tune is 「Overnight Sensation」&「Love Of A Lifetime」
by FIREHOUSE



STORY & Photo by 陳 笈


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by endow2004jp | 2007-10-21 03:14 | 『カリスマ』⑩

トランスメディア提供アイコン01ブログ in ドラマ 第4回作品 『カリスマ』 ―第1話―

ブログ in ドラマ 第4回作品



カリスマ ― Charisma ― とは、

《ギリシア語で、神の賜物の意》超自然的、超人間的な力をもつ資質。預言者
・呪術(じゅじゅつ)者・軍事的英雄などにみられる、天与の非日常的な力。       
― 大辞泉




――――――――――――――― 第1話 ―――――――――――――


原宿・表参道・青山。
都内の人気スポットでありながら、多くの木々が四季を感じさせてくれる街。
そこは、人の・・、特に女性の、半生を投影したような街。
女性は、その年齢と経験を経て、原宿から表参道、表参道から青山へと、場所
を移しながら成長していく。
原宿・神宮前と青山を真っ直ぐに結ぶ表参道の、その緩やかに上る坂道は、さ
ながら女性の半生を物語る道のようですらある。


ちょっとぉ! 誰が“オバサン”だってぇ!
町島 柊子(まちじま しゅうこ)は、そう声を上げながら振り返った。
柊子が振り返ったその先には、絵に描いたような“イマドキ”の女子高生が二人、
柊子の方を向いて立っていた。
「ちょっと・・柊子さん・・。」 
柊子と一緒にいた村田 千沙(むらた ちさ)が、恥ずかしそうに柊子のスーツ
の袖を引っ張りながら声を掛ける。

朝から表回りの仕事で歩き疲れた柊子と千沙の二人が、ちょっと一休みしよう
とファーストフード・ショップの入口でメニューのボードを見ていると背後か
ら、「邪魔だよ、オバサン!」 と、言われたのだった。

「どっち? 今、“オバサン”って言ったのは?」
二人の女子高生を見据えるようにした柊子が続けた。
「ねぇねぇ、なんかさぁ、ちょぉー、ウケルんだけど。」
「ウケルウケル、“オバサン”が“オバサン”って言われて怒ってるしぃ。」
女子高生二人組は、まったく悪びれる風でもなく、そう言うと大声で笑いなが
ら店内へ入っていってしまった。
“箸が転んでも可笑しい年頃”には、“オバサンが怒っていても可笑しい”らしい。
「むーっ! なんだとぉぉぉ!!」
「ね、柊子さん。もチョット、落ち着いた店にしよ。ね。」
怒りに身体を震わせる柊子を、引きつった笑顔の千沙がなんとか押さえこんだ。



― 「さ・て・と・・今日は、どんな感じにする?」
― 木製の椅子に浅く腰掛けた女性の、そのすぐ脇からそんな声が掛けられた。



「・・ったく、最近の女子高生ときたら・・大体、アンタも私より二つも歳が
下だと思って、“自分の事じゃない”みたいに思ってるんでしょ。」
表通りから一本奥へ入った細い通りにある、落ち着いた感じの喫茶店に入った
柊子と千沙だったが、薄くらい店内の奥のテーブル席に着いてもまだ柊子の怒
りは治まっていなかった。
「ちょっとぉ、柊子さん。アタシに当たらないでくださいよ。」
「でもさあ・・」
「まあまあ、そんな事より、仕事ですよ。シ・ゴ・ト。」
まだ何か言いたそうな柊子を、年下の千沙が制して話題を変えた。



― 「熱くないですか?」
― 真っ白なタオルが乗せられた女性の顔の上から、声が降ってきた。
― 髪の毛越しに、心地よい温かさのシャワーが当たるのが感じられた。



「それにしても、なぁんかイマイチじゃない?」
アメリカンコーヒーの入った、小ぶりなカップの縁に着いた口紅を親指で拭き
ながら柊子は言った。
「いいんじゃないですかぁ。とりあえず、岡部さんが引き受けてくれたんだから。 
“この冬のモテ髪スタイル“」
と、千沙がなだめる。
柊子と千沙の二人は、20代の働く女性をターゲットにした月刊誌の編集スタ
ッフだ。
二人は、次号に掲載する、この冬の髪型を提案する企画に協力してもらえる美
容院を探すために朝から青山・表参道エリアの美容院を訪問していた。
何件もの美容院をまわったものの、タイアップの条件などで話が合わず結局、
柊子がいつも協力を仰いでいる「Hot Stuff」という美容院の店長、岡部 博之
(おかべ ひろゆき)のところでやっと約束を取り付けてきたところだった。
「そうだけどさあ・・・。結局、またいつもの岡部君だし・・・。」
「しょうがないじゃないですか。最近、この辺の美容院も中々こういう企画引
き受けてくれないんだから。」
「だよねぇ。タイアップで、店の広告をデカクしろ、だのさあ・・。」
「まったく、って感じですよね。でも、いいじゃないですか岡部さんで。彼、
人気あるし、私好きですよ、彼の作る髪形。 なんか、やさしい感じで。」
「まあ・・、そうだけど・・・」
岡部のいる「Hot Stuff」も、岡部自身も、都心の美容院の中ではそれなりに評
価得ているし、人気もある。
それでも柊子は、いつも髪型に関わる企画が組まれる度に、岡部にばかり登場
してもらっている現状に居心地の悪さのような物を感じていた。
“いつも快く協力してくれる岡部には悪いが、そろそろ違うバリエーションも
用意しておかないと・・飽きられてしまうのではないか?” 
そんな想いが柊子の頭の中を過っていた。



― ハサミの刃と刃がかすかに触れ合う小気味のいい音がしていた。
― 音のする度に、わずかな髪の毛が、女性の髪から離れて落ちた。




「ねえ千沙、先に戻ってて。」
喫茶店を出たところで柊子が突然、何かを思い立ったように言った。
「えっ、先にって、柊子さんは?」
「私、もう一度、岡部君のトコに行ってくる。」
「なんか忘れてました?」
「そうじゃなくて、さっき彼が言ってた“キョージ”っていうスタイリストの
事が気になっちゃって。」
「ああ。あそこのスタッフが切ってもらってるっていう。」
「うん。その人の事、岡部君にもっとよく聞いてみようと思って。」

柊子達が「Hot Stuff」を訪問して岡部に、今回の企画について話していた時、
その会話の中で岡部をはじめとするスタッフの髪型の事に話題が逸れた。
“ここのスタッフは、いつも皆ステキな髪型をしている”と、柊子が予てから
思っていたことを口にし、さらに“スタッフは、スタッフ同士で切ったりする
のか?”と、岡部に訊ねてみると、それもあるが大半は、岡部が以前在籍して
いた店の先輩で “キョージ”というスタイリストがいて、その人に勉強を兼ね
て切ってもらっていると、岡部が答えていたのだった。
柊子はさっきから、その“キョージ”というスタイリストの事が気になっていた。
“表参道で働くプロの美容師が、勉強を兼ねて切ってもらう美容師・・、いっ
たいどんな人物なのだろう?”
そのスタイリストへの興味が、柊子の中で急激に大きくなりつつあった。

「了解しました。編集長には一応、岡部さんを押えたって報告しときますね。」
千沙は、柊子の突然の話にも動ずることなく、瞬時に頭を切り替えていた。
「ありがと、おねがいね。」
二人は、その場で別々の方向へと別れた。



― ドライヤーから吹きだす温かい風が、髪の毛をキレイに乾かしていく。
― 「軽くワックスとか付けてもいいかな?」
― 頭の後ろの方から問いかけられた。




「あれぇ、柊子さんどうしました?」
再び「Hot Stuff」へ戻って来た柊子に、たまたま入口のカウンターにいた岡部
が声を掛けた。
「あぁ、丁度よかった。ねえ、教えてほしい事があるんだけど。」
「えっ、僕にですか?」
「うん。」言いながら、柊子は大きく頷いてみせた。



― 目の前の鏡に映る合わせ鏡の中に、その女性の後ろ髪が映っていた。
― 「どうかな? 後ろは、こんな感じだけど。」
― 女性の顔に明るい笑顔が浮かんでいた。



「・・石畳みたいになった路地・・・と、ここかな?」
岡部が描いてくれたラフな地図を頼りに歩いてきた柊子が、表参道と明治通り
が交差する交差点のそばの路地へと入っていった。
“えっ、キョージさんですか? 店の場所、教えるのはいいですケド・・”
柊子が、“キョージ”というスタイリストを紹介して欲しいと頼むと、岡部はそ
う言って言い澱んだ。
“キョージさん、腕は間違いなくいいんだけど・・そのぉ・・ちょっと、変わ
ってますよ。それに、マスコミとかも、あんまり好きじゃないみたいだし・・”
 それでも柊子が、頑として引き下がらないでいると、
“キョージさんの店、電話無くて、いつも予約とかの電話は携帯にかけてるん
ですけど、さすがに携帯の番号教えるのはマズイっすから・・”
と、岡部は言いながら、A4のコピー用紙にマジックで地図を描いてくれたの
だった。
“キョージ”こと、沖田 杏二(おきた きょうじ)の開く美容院を示す場所
には、黒く塗りつぶした★印と、「裏原図書館」という店名が書かれていた。
「ウラハラトショカン? 図書館? 美容院なのに・・・?」
この不思議な店名について岡部にも訊ねてみたが、
“そういう店名なんですよ。だから言ったでしょ、変わってるって。”
としか、答えてくれなかった。
「図・書・館・・?」
柊子は、そんな風に呟きながら、細い路地を進んでいった。


― 「お疲れ様。」
― 座っていた椅子を、くるっと回して立ち上がった女性が、
― 「“キョージ”、どお?アタシ、イケてる?」と、聞いた。
― 「いいんじゃない。高一の女の子にしては、充分イケてると思うよ。」
― 「高一の女の子にしては、ってのが余計だな。」 
― そう言って、その女性、いや、女の子は、ふくれて見せた。
― 「ま、間違いないだろ。なんせ、この俺が切ったんだから。」
― 冗談めいた口調の中にも、明らかな自信を込めて沖田 杏二は、そう言った。
― そんな会話をしながら、女の子の客を見送りながら杏二も一緒に店の外へ出た。


「なんだ、葵(あおい)。いないと思ったら、また杏二に切ってもらってたのか?」
杏二の店「裏原図書館」の対面にある、有機野菜の店「原宿有機野菜店」。
その店先で、店主の片桐 秀俊(かたぎり ひでとし)が声を掛けてきた。
葵は、片桐のひとり娘だ。
「葵ちゃんは、明日デートだってよ。」
「何ぃ! おいコラ葵、俺はそんな話聞いてないぞぉ!」
父親の言うことなど半分も聞かずに、葵はサッサと店の奥へと消えていった。
「ったく・・あ、杏二ワリィ、アイツのカット代、ツケにしといてくれ、な。」
「あいよ。」 
杏二は、そう言いながら「原宿有機野菜店」の店先に並んだ野菜を眺めた。
「あ、杏二いま暇なんだろ、じゃあ、ちょっと店見ててくんないかな?」
「OK!」 杏二は、そう答えると、自分の店の店内の電気を消してドアに鍵
を掛けてから狭い路地を横断して「原宿有機野菜店」の店内へと入っていった。



「裏原図書館・・、対面が有機野菜のお店で・・・と。」
柊子の目の前に間口が5メートルも無いような小さな店が現れた。
そこが店だと事前に知らされていなければ、気づかないような店だった。
白い板張りの外装にガラスのはめられた木製のドア、ドアの横には木製の枠の窓。
大きな看板も無く、入口のドアの中央に「裏原図書館」と書かれた木製のプレ
ートが付けられているだけだった。
柊子は、「裏原図書館」の前まで来ると、窓越しに店内を覗いて見たが、店内は
暗く営業している気配が感じられなかった。
「なんだ・・、お休みか・・・」
残念に思いつつ、いま来た路地を戻ろうとした柊子はふと、「裏原図書館」の対
面にある有機野菜の店へ目を向けた。
土の付いたままの野菜が店先を飾っている店の中に、店主とおぼしき男性が椅
子に座って居眠りをしているのが見えた。
柊子は、その男性が有機野菜を売っている店には、あまり似つかわしくないように感じながら、その場をあとにした。


「ああぁっ、キョージまたそんなトコで居眠りしてる。」
葵の声で目を覚ました杏二は、アクビをしながら大きく身体を伸ばした。
「葵、バトンタッチな。」
そう言うと杏二は、立ち上がって店から出て行った。


10月半ばの夕方は、早くもすっかり陽が落ちようとしていた。


■ Theme Tune is 「Overnight Sensation」&「Love Of A Lifetime」
by FIREHOUSE



STORY & Photo by 陳 笈


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by endow2004jp | 2007-10-14 01:52 | 『カリスマ』⑩