~ STORY CLIP ~ Part 3“Candy Apple Red”午後の柔らかい、夕方と呼ぶにはまだ少し早い時間の柔らかな日差しが、
レンガを思わせるモザイクを施した歩道の路面に、実際の背丈よりも背が
高く色の濃い影を映し出していた。
女性は、その歩道を歩いていた。
白いブラウスの上に黒のベストを着て、赤を基調としたチェック柄のミニ
・スカートを穿き、脚には黒の二―・ハイ丈のソックスに、黒いロングの
エンジニア・ブーツを履き、携帯電話を片手にその画面を見つめながら
歩いていた。
ベストは勿論、ブラウスも、その丈は短めで、黒いベストと赤いミニ・ス
カートの間に覗く、ベストよりも少しだけ丈の長いブラウスの裾が、その
女性の腰から脚へかけてのラインに効果的なアクセントを加えていて、
スカートの裾とニー・ハイ・ソックスとの間に覗く白い太腿に、より張りの
ある健康的な印象を与えていた。

女性の右肩からは、腰の左側へと小ぶりな黒いショルダー・バッグが掛
けられ、さらに
“Fender”と大きくブランド・ネームが描かれた、黒い
ギターのソフト・ケースを、リュックのように両肩から背負うようにして担い
でいた。
決して大柄ではないその女性にギター・ケースは、とても大きな物のよう
に感じられたが、歩いているその足どりは、けして重たい物を背負ってい
るといった風ではなく、とても軽やかに見えていた。
その歩道をしばらく歩いてきた女性はやがて、その通り沿いに建つマンシ
ョンへと入っていった。
レンガ色をした・・・実際にレンガを貼って仕上げられた外装を持つ7階建
ての小ぶりなマンションだった。

マンションへ入った女性はエントランスを抜け、エレベーターで3階へと上
がった。
女性はエレベーターから出ると、エレベーターを挟んで両側にひとつずつ
有るドアの、向って右側のドアを開けてその部屋の中へと入っていった。
女性が入ったその部屋は、玄関からその部屋のメインとなるリビング兼ダ
イニングのスペースが見渡せるシンプルな造りとなっていた。
女性は、玄関でエンジニア・ブーツを脱いで部屋へと上がると、背負って
いたギター・ケースをリビングに置かれたラヴ・チェア風のソファーの脇に
立て掛けて置き、肩に掛けていたショルダー・バッグもそのソファーの上
に下ろした。
それから一旦その場を離れて、同じスペースの玄関側にある簡素なキッ
チンへ向かい、手を洗ってうがいをしてから再びリビングへ戻ると、先ほど
のソファーに座った。
ソファーに座ったまま女性は、そこに立て掛けておいたギター・ケースを
自分の前へと引き寄せ、ケースのファスナーを開いた。
ギター・ケースの、その中から赤いボディのギターを取り出した。

Fenderのテレキャスターだった。
中身が抜けて抜けガラのようになったギター・ケースを足元に落としたま
ま、女性はそのギターを抱えてみた。
メタリック系の赤で仕上げられたギターのボディが、女性の太腿に当たっ
て、ひんやりとした感触を感じさせた。
ギターには、それがまだ新品である事を物語る、透明な保護用のシート
が付いていた。
女性は、白いプラスティックで出来たピックガードやクローム・メッキを
施した金属製のプレートに貼られたそのシートを丁寧に剥がし、剥がし終
わったシートを小さく丸めると、そばに置いてあった屑籠へ放りこんだ。
女性は、ソファに座ったまま改めて自分が抱えているギターを見つめると、
そのまま身体を屈めて足元の落ちたままになっていたギター・ケースの
表面にある大きなポケットを開け、そこからまだパッケージのままのギター
用のストラップを取り出した。
身体を元に戻すと、パッケージを開け中からストラップを取り出した。
パッケージは、先ほどのシートと同じく屑籠へと放り込まれた。
ストラップは、黒い革製の、肩に当たる部分以外が非常に細い物だった。
女性は、そのストラップを肩に掛け、長さを調節しながらギターに装着す
ると、そのまま立ちあがった。
立ちあがって持ってみたギターの位置は、ボディの一番下となる部分が自
分の脚のつけ根の前になる丁度良い高さに収まっていた。
女性は、その感覚を確認すると、もう一度改めてギターを見つめた。
それから、ギターを抱えたまま玄関へと移動し、壁に立て掛けてある姿見
の鏡の前に立ってみた。
鏡の中には、ギターを抱えた女性の全身が映っていた。
鏡に映ったその姿を確認した女性は、ソファーに戻りそこに置いたままに
なっていたショルダー・バッグから携帯電話を取り出した。
ギターを抱えて立ったまま携帯を操作した女性は、ダイニング・テーブル
の上に携帯を置き、そこから少し離れた位置に立った。
程なく、携帯からセルフタイマーでシャッターが切られる音が聞こえた。
携帯を手に取り、映し出された画像を確認すると、同じように携帯をセッ
トして写真を撮影した。
女性は、それから何回か同じようにして撮影を続けた。
しばらくすると、ソファーの上にギターを置いて隣の部屋へ入って行き、
白い半袖のカットソーにジーンズという格好へと衣装を変えてきて、再び
その衣装でギターを抱えると、同じように何枚かの写真を撮っていった。
またしばらくすると女性は、先ほどと同じようにギターを置くと隣の部屋
へと消えていった。

程なく戻ってきた女性は、ソファーの前でギターという“衣装”だけを身
に着けた。
ダイニング・テーブルに置かれた携帯電話へ向かう女性の、その白い
背中を窓から差し込む夕日が、ほんのり赤く照らしていた。
Story & Photo by 陳 笈Photo Location 協力:株式会社 黒澤楽器店 ――――――――― ~ STORY CLIP ~ とは、――――――――
ありふれた日常の中からワン・シーンを切り取って、ちょっとした
短いストーリーにしたような、そんな作品です。
単なる日常の中のワン・シーンですので、登場人物の名前も年齢も、
設定されていません。
そんな風景を描いた連作が ~ STORY CLIP ~ なのです。
それぞれの物語は、つながっているようでもあり、全く別なお話の
ようでもあります。
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