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トランスメディア提供アイコン01カテゴリ:~ STORY CLIP ~

  • ~ STORY CLIP ~ Part 6 “Happily Running”
    [ 2009-12-27 16:47 ]
  • ~ STORY CLIP ~ Part 5 “Happy Running”
    [ 2009-11-30 19:10 ]
  • ~ STORY CLIP ~ Part 4 “You Are The Champion”
    [ 2009-10-10 21:33 ]
  • ~ STORY CLIP ~ Part 3 “Candy Apple Red”
    [ 2009-04-01 14:18 ]
  • ~ STORY CLIP ~ Part 2 “白いシーツのぬくもり”
    [ 2009-03-21 10:56 ]
  • ~ STORY CLIP ~ Part 1 “雨の香り”
    [ 2009-03-15 11:30 ]

トランスメディア提供アイコン01~ STORY CLIP ~ Part 6 “Happily Running”


~ STORY CLIP ~          Part 6


“Happily Running”





走っていた。


平日の夜。

家路を急ぐ人の群れの中。

その男性は走っていた。

地下鉄のホーム。


男性は、時おり小刻みに跳ねるようにステップをして人を避けながら、
走っていた。

そのステップのあまりの勢いに、避けられた人の中には、驚いたような
表情を浮かべて、その場に立ち止まっている者もいた。



男性は、その勢いのまま、人を避けながら階段を駆け上がると、自動
改札を、ゲートが開く僅かな時間すらも、もどかしそうにしながら通り抜
けた。

改札を抜けると、右に左に、そして正面へと、三方向に地下の通路が続
いていた。
蛍光灯らしい照明が放つ無機質な明かりに照らされた通路は、石張りの
床とタイルを貼った壁も、天井以外は白っぽい色で仕上げられていて、
照明の明かりと共にどこか冷たい印象を与えてはいたものの、思いのほ
か明るく感じられていた。

男性は、迷うことなく、正面へと続いている通路を進んだ。

通路を、走りはしないものの、足早に進んでいく男性の片手には、白い
携帯電話が握られていた。
歩きながら男性が、手にした携帯電話を開き、その場に足を止めた。
開いた携帯電話のディスプレーに目を落とした男性は、すぐに短く何か
操作をすると、再び携帯電話を折りたたみ、それを手にしたまま再び歩
きだした。



男性が歩いていた通路は程なく、目の前に別な路線の改札口があるスペ
ースへと通じる出口となっていた。

そのスペースは、大きなターミナル駅の地下のフロアで、そこに通じる地
下通路とは異なり、改札口の部分だけでも幾つものゲートがあり、さらに
その手前にはいくつかの店舗と鉄道の窓口などもある、大きくひらけたエ
リアとなっていた。
通路からそのスペースへと出た男性は、そのまま正面に並ぶ改札口へと
向かって歩いていった。
改札口のその前まで来ると男性は、手にしていた携帯電話を再び開きディ
スプレーを見つめた。
今度も、先程と同じように短い操作をすると、携帯電話を折りたたんだ。
携帯電話を手にしたまま、改札口の手前でその内側を改札口へ向けて歩
いてくる人たちと、そこから出てくる人たちの姿に目を向けていた。
男性は、そわそわとしながら、しばらくその場に立ったままでいた。

「きゃーっ、まったあ!」
改札口の方から女性の声がした。

男性は一瞬、声のした方へ目を向けた。
そこには、待ち合わせをしているらしい3~4人の若い女性が嬌声をあげ
ている姿があった。
それを確認すると男性は、すぐにまた改札口の周囲へと視線を戻した。
すると、視線を戻した男性は、何かに気づいたように僅かに改札口の方へ
と歩み寄った。
男性の視線のその先には、いままさに改札口を通ろうとしている一人の女
性の姿があった。

改札口から出てきたその女性は、何かを探すように辺りを見渡した。
女性のその視線が、改札口のすぐそばに立っている男性の姿をとらえた。
女性は、男性に向けて、何かを問いかけるようなしぐさと表情をしてみせた。
男性は、女性のその視線に無言のまま小さく頷いて応えた。
女性は、ゆっくりと男性の方へと歩いてくると、その目の前まで来た時に
は、その表情に小さく柔らかい笑みを浮かべていた。
男性は、目の前にいる女性にまた頷いてみせた。


二人はそのまま、どちらからともなく抱き合った。

何も言葉は交わさずに、ただ抱き合っていた。


冷たい色に覆われた地下の空間の、そこだけが暖かい色に包まれている
ように感じられた。




Story & Photo by 陳 笈



 ――――――――― ~ STORY CLIP ~ とは、――――――――
 ありふれた日常の中からワン・シーンを切り取って、ちょっとした
 短いストーリーにしたような、そんな作品です。
 単なる日常の中のワン・シーンですので、登場人物の名前も年齢も、
 設定されていません。
 そんな風景を描いた連作が ~ STORY CLIP ~ なのです。
 それぞれの物語は、つながっているようでもあり、全く別なお話の
 ようでもあります。
 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ブログ in ドラマの更新は、今回が年内最終となります。 
 来年は、今年以上の更新ができるようにと考えています。

 来年もまた、よろしくお願いたします。

                                    ― 陳 笈―



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by endow2004jp | 2009-12-27 16:47 | ~ STORY CLIP ~

トランスメディア提供アイコン01~ STORY CLIP ~ Part 5 “Happy Running”


~ STORY CLIP ~          Part 5


“Happy Running”




走っていた。


額に、汗が滲んでいる。


西に傾いた、大きな太陽が、強く白っぽい日差しを放っている。
日差しは、片側二車線の道路が真っ直ぐに伸びた街並みに、濃淡のはっきり
とした陰影を、しっかりと刻み込んでいた。

男性は、走っていた。
力強い西の日差しに、正面から向かっていくかたちで、走っていた。

白いスニーカーの、飴色をしたラバーのソールが、モザイク柄にレンガのよう
なブロックを埋め込んだ歩道の路面を、軽やかな足取りで蹴っていた。



走りながら男性は今、無性に誰かと”ハイタッチ”を交わしたい、衝動に駆られ
ていた。
それくらいに、気分が高揚していた。
すれ違う人たちと、誰彼構わず”ハイタッチ”を交わしたい、そんな気分だった。
歩道を歩いて来る人とすれ違う度に、その見ず知らずの人と”ハイタッチ”を交
わす自分の姿と、その光景を、男性は想い浮かべてみた。
相手の誰もが驚きながらも手を挙げ、その手に向かって思いきり”ハイタッチ”
をする自分の姿を脳裏に描いて、男性は気分がさらに高揚して、今にも笑い
だしそうな気分になっていた。
空を仰ぎ見て、大声で笑いそうだった。
実際、男性は走りながら、うっすらと楽しげな笑みを、その表情に浮かべていた。

真っ直ぐに続く歩道の、男性が走っているすぐ先の交差点の信号が、赤に変わ
った。
交差点まで来た男性は、その信号に足を止められた。
赤いランプが光る信号機に目を向けた男性は、信号が青に変わるのを待ちなが
ら、

“次にすれ違う人と、本当にハイタッチを交わしてみよう”

と、考えていた。



程なく、信号が赤から青へと変わった。
本当に“ハイタッチ”を交わす相手を確認すべく、男性は交差点の反対側へと目
を向けた。

次の瞬間、男性のその表情に苦笑いような笑みが広がっていった。

男性が目を向けたその先には、ベビーカーを小ぶりにしたような形をしたカート
を押した、ちいさなお婆さんの姿があった。
その姿を確認した男性は、
「いくらなんでも、そりゃあねえわな・・・」
と、小さく呟いた。
男性は、走りださず、歩いてその交差点を渡りだした。
交差点の中ほどで、カートを押したお婆さんが男性の横をゆっくりと通り過ぎて
いった。
お婆さんは、とても柔らかな笑みをそのしわくちゃの顔に浮かべていた。
男性は、交差点を渡りきったところで足を止めると、振り返り、今しがたすれ違っ
たお婆さんの方へと、視線を向けた。
お婆さんは、まだ交差点を渡りきっていなかった。
ゆっくり、ゆっくりとカートを押しながら進むお婆さんを、交差点の反対側から男
性は、見つめていた。
お婆さんの押すカートが、”カシャカシャ”と軽い音をたてていた。
やがて、お婆さんと、お婆さんのカートは、信号が再び赤に変わる寸前で、交差
点を渡りきった。
その姿を、交差点の反対側から見ていた男性は、お婆さんの後ろ姿へ向けて、

「へーイ!」
と、軽い声をあげながら、“ハイタッチ”の仕草をしてみせた。

男性の表情には、とても満足げな笑みが広がっていた。


交差点の反対側から、”カシャカシャ”というカートの音が聞こえていた。





Story & Photo by 陳 笈


 ――――――――― ~ STORY CLIP ~ とは、――――――――
 ありふれた日常の中からワン・シーンを切り取って、ちょっとした
 短いストーリーにしたような、そんな作品です。
 単なる日常の中のワン・シーンですので、登場人物の名前も年齢も、
 設定されていません。
 そんな風景を描いた連作が ~ STORY CLIP ~ なのです。
 それぞれの物語は、つながっているようでもあり、全く別なお話の
 ようでもあります。
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by endow2004jp | 2009-11-30 19:10 | ~ STORY CLIP ~

トランスメディア提供アイコン01~ STORY CLIP ~ Part 4 “You Are The Champion”



~ STORY CLIP ~          Part 4

“You Are The Champion”




乾いた音がした。

歩道に並ぶ街路樹から、それは舞ってきた。

すでに黄色っぽい色となったそのプラタナスの葉が、わずかな風に乗せ
られて乾いた空気の中を、ひらひらと、ふらふらと、舞い降りてきた。
舞い降りてきたそれが、アスファルトで舗装された歩道の路面と触れ合
い、乾いた音をさせた。
”カサっ”とか、”ササっ”というような、そんなわずかな音だった。


その歩道を、一人の女性が歩いていた。
シンプルだけどシルエットのきれいな、明るいグレーのパンツスーツを
着たその女性は、プラタナスの葉が舞ってくる様の一部始終を目にし、
そしてその乾いた音がするのを耳にしていた。
女性は、プラタナスの葉が落ちている、その手前まで来ると脚を止め、
足元にあるその葉が、つい今しがたまで生活をしていた方へと目を向け
た。
そこには、まだ緑色をした葉をたくさん身にまとったプラタナスの木が
立っていた。
見ると、立ち並ぶ街路樹のプラタナスは、どれも同じように緑の葉をま
とっていて、女性の視線の届く範囲の歩道には、他には落ち葉など落ち
ていなかった。


女性が再び、足元の落ち葉へと視線を戻すと、その時、

「あらあらあら」

という声が聞こえた。

女性が、声のした方へ目を向けると、そこにはベビーカーを小ぶりにし
たような形のカートを押す、お婆さんの姿があった。

「あらあらあら」

女性が目を向けるとお婆さんは、もう一度そう繰り返した。
お婆さんは、なにかとても愛おしい物でも見るように、しわくちゃな顔
いっぱいに穏やかな笑みを浮かべながら、楽しそうに、

「あらあらあら」

と、繰り返していた。
見ると、黄色い色をした丸いものが一つ、お婆さんと女性の間を転がって
いた。
転がっている黄色い丸いものは、どうやらグレープフルーツのようだった。
そのグレープフルーツが、お婆さんの方から女性のところへ向けて転がっ
ていた。

「あらあら」

お婆さんが、また繰り返した。
女性は、身体を屈めて手を伸ばすと、そのグレープフルーツを拾い上げた。
しゃがんだような格好で、グレープフルーツを手に女性が視線をあげると、
お婆さんは笑顔のままカートを押しながら、ゆっくり、ゆっくりと、女性の方
へと歩いてきていた。
お婆さんの押すカートが、“カシャカシャ”と、頼りない感じのする音をたて
ていた。

「あらあらあら」

お婆さんがまた、そう繰り返し、女性の目の前までやってきた。
女性は、しゃがんだ姿のまま、お婆さんにグレープフルーツを手渡した。

「ありがとうねぇ」

お婆さんは、先ほどのままの優しい笑みを浮かべた表情で、グレープフル
ーツを受け取ると、大切そうにそれをカートの中へしまった。
女性は、それを見届けると、立ち上がって、お婆さんに微笑みかけた。
立ち上がった女性の半分ほどしか背丈のないお婆さんは、

「ありがとうねぇ」

と、もう一度繰り返した。
その言葉に女性は、笑顔でこたえた。

お婆さんは、それから、柔らかい笑みを浮かべたまま、歩いていった。
ゆっくり、ゆっくりと、カートを押しながら。
“カシャカシャ”と頼りない感じのするカートの音をたてながら。


女性はそのまま、同じ場所で、その姿を見送っていた。
ひとしきりお婆さんの後ろ姿へ目を向けていた女性は、小さいお婆さん
の姿が、さらに小さくなると、再びその場にしゃがんだ。

しゃがんだまま片手を伸ばすと、目の前に落ちていたプラタナスの葉を
摘みあげた。
右手の人差し指と親指で摘んだそれは、カラカラに乾いていて、ほとん
ど重みを感じないほどに軽く、今にも崩れてなくなってしまいそうな感触
を、女性に感じさせた。

指先で摘んだプラタナスの葉を、まじまじと見つめていた女性は、

「あなたが一番手みたいね」

そう呟いた。


女性は、しゃがんだまま、先ほどのお婆さんと同じくらいの優しい笑みを、
プラタナスの葉へと向けていた。

優しく、柔らかな日差しが女性の、ピッタリとしたスーツに包まれた背中
を包み込んでいた。





Story & Photo by 陳 笈


 ――――――――― ~ STORY CLIP ~ とは、――――――――
 ありふれた日常の中からワン・シーンを切り取って、ちょっとした
 短いストーリーにしたような、そんな作品です。
 単なる日常の中のワン・シーンですので、登場人物の名前も年齢も、
 設定されていません。
 そんな風景を描いた連作が ~ STORY CLIP ~ なのです。
 それぞれの物語は、つながっているようでもあり、全く別なお話の
 ようでもあります。
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by endow2004jp | 2009-10-10 21:33 | ~ STORY CLIP ~

トランスメディア提供アイコン01~ STORY CLIP ~ Part 3 “Candy Apple Red”


~ STORY CLIP ~          Part 3


“Candy Apple Red”


午後の柔らかい、夕方と呼ぶにはまだ少し早い時間の柔らかな日差しが、
レンガを思わせるモザイクを施した歩道の路面に、実際の背丈よりも背が
高く色の濃い影を映し出していた。

女性は、その歩道を歩いていた。

白いブラウスの上に黒のベストを着て、赤を基調としたチェック柄のミニ
・スカートを穿き、脚には黒の二―・ハイ丈のソックスに、黒いロングの
エンジニア・ブーツを履き、携帯電話を片手にその画面を見つめながら
歩いていた。
ベストは勿論、ブラウスも、その丈は短めで、黒いベストと赤いミニ・ス
カートの間に覗く、ベストよりも少しだけ丈の長いブラウスの裾が、その
女性の腰から脚へかけてのラインに効果的なアクセントを加えていて、
スカートの裾とニー・ハイ・ソックスとの間に覗く白い太腿に、より張りの
ある健康的な印象を与えていた。

女性の右肩からは、腰の左側へと小ぶりな黒いショルダー・バッグが掛
けられ、さらに“Fender”と大きくブランド・ネームが描かれた、黒い
ギターのソフト・ケースを、リュックのように両肩から背負うようにして担い
でいた。
決して大柄ではないその女性にギター・ケースは、とても大きな物のよう
に感じられたが、歩いているその足どりは、けして重たい物を背負ってい
るといった風ではなく、とても軽やかに見えていた。
その歩道をしばらく歩いてきた女性はやがて、その通り沿いに建つマンシ
ョンへと入っていった。
レンガ色をした・・・実際にレンガを貼って仕上げられた外装を持つ7階建
ての小ぶりなマンションだった。

マンションへ入った女性はエントランスを抜け、エレベーターで3階へと上
がった。
女性はエレベーターから出ると、エレベーターを挟んで両側にひとつずつ
有るドアの、向って右側のドアを開けてその部屋の中へと入っていった。
女性が入ったその部屋は、玄関からその部屋のメインとなるリビング兼ダ
イニングのスペースが見渡せるシンプルな造りとなっていた。
女性は、玄関でエンジニア・ブーツを脱いで部屋へと上がると、背負って
いたギター・ケースをリビングに置かれたラヴ・チェア風のソファーの脇に
立て掛けて置き、肩に掛けていたショルダー・バッグもそのソファーの上
に下ろした。
それから一旦その場を離れて、同じスペースの玄関側にある簡素なキッ
チンへ向かい、手を洗ってうがいをしてから再びリビングへ戻ると、先ほど
のソファーに座った。
ソファーに座ったまま女性は、そこに立て掛けておいたギター・ケースを
自分の前へと引き寄せ、ケースのファスナーを開いた。
ギター・ケースの、その中から赤いボディのギターを取り出した。

Fenderのテレキャスターだった。

中身が抜けて抜けガラのようになったギター・ケースを足元に落としたま
ま、女性はそのギターを抱えてみた。
メタリック系の赤で仕上げられたギターのボディが、女性の太腿に当たっ
て、ひんやりとした感触を感じさせた。
ギターには、それがまだ新品である事を物語る、透明な保護用のシート
が付いていた。
女性は、白いプラスティックで出来たピックガードやクローム・メッキを
施した金属製のプレートに貼られたそのシートを丁寧に剥がし、剥がし終
わったシートを小さく丸めると、そばに置いてあった屑籠へ放りこんだ。
女性は、ソファに座ったまま改めて自分が抱えているギターを見つめると、
そのまま身体を屈めて足元の落ちたままになっていたギター・ケースの
表面にある大きなポケットを開け、そこからまだパッケージのままのギター
用のストラップを取り出した。
身体を元に戻すと、パッケージを開け中からストラップを取り出した。
パッケージは、先ほどのシートと同じく屑籠へと放り込まれた。
ストラップは、黒い革製の、肩に当たる部分以外が非常に細い物だった。
女性は、そのストラップを肩に掛け、長さを調節しながらギターに装着す
ると、そのまま立ちあがった。
立ちあがって持ってみたギターの位置は、ボディの一番下となる部分が自
分の脚のつけ根の前になる丁度良い高さに収まっていた。
女性は、その感覚を確認すると、もう一度改めてギターを見つめた。
それから、ギターを抱えたまま玄関へと移動し、壁に立て掛けてある姿見
の鏡の前に立ってみた。

鏡の中には、ギターを抱えた女性の全身が映っていた。
鏡に映ったその姿を確認した女性は、ソファーに戻りそこに置いたままに
なっていたショルダー・バッグから携帯電話を取り出した。
ギターを抱えて立ったまま携帯を操作した女性は、ダイニング・テーブル
の上に携帯を置き、そこから少し離れた位置に立った。
程なく、携帯からセルフタイマーでシャッターが切られる音が聞こえた。
携帯を手に取り、映し出された画像を確認すると、同じように携帯をセッ
トして写真を撮影した。
女性は、それから何回か同じようにして撮影を続けた。
しばらくすると、ソファーの上にギターを置いて隣の部屋へ入って行き、
白い半袖のカットソーにジーンズという格好へと衣装を変えてきて、再び
その衣装でギターを抱えると、同じように何枚かの写真を撮っていった。
またしばらくすると女性は、先ほどと同じようにギターを置くと隣の部屋
へと消えていった。

程なく戻ってきた女性は、ソファーの前でギターという“衣装”だけを身
に着けた。

ダイニング・テーブルに置かれた携帯電話へ向かう女性の、その白い
背中を窓から差し込む夕日が、ほんのり赤く照らしていた。




Story & Photo by 陳 笈
Photo Location 協力:株式会社 黒澤楽器店


 ――――――――― ~ STORY CLIP ~ とは、―――――――― 
 ありふれた日常の中からワン・シーンを切り取って、ちょっとした
 短いストーリーにしたような、そんな作品です。
 単なる日常の中のワン・シーンですので、登場人物の名前も年齢も、
 設定されていません。
 そんな風景を描いた連作が ~ STORY CLIP ~ なのです。
 それぞれの物語は、つながっているようでもあり、全く別なお話の
 ようでもあります。
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by endow2004jp | 2009-04-01 14:18 | ~ STORY CLIP ~

トランスメディア提供アイコン01~ STORY CLIP ~ Part 2 “白いシーツのぬくもり”



~ STORY CLIP ~          Part 2


“白いシーツのぬくもり”



アイボリーとでもいうのだろうか・・・

白っぽい石を模した柄に仕上げられた玄関の土間に、灰色がかった色を
したウエスタン調のブーツが、片方が倒れた状態で寂しく佇んでいた。
土間以外の床には、白っぽい色のカーペットが貼られていた。
土間のすぐ脇のカーペット貼りの床に、茶色っぽい色のショルダー・バッグ
が、ブーツを脱ぎながら置いたであろう事がすぐに分かる感じで、“ぽつん”
と置かれていた。
バッグから少し離れた処には、白っぽいキャップが、これは“落ちて”いる
感じで転がっていた。
玄関のスペースから短い廊下があり、その途中には二段だけの階段が在
り、その階段を上がった先にはリビングのスペースが広がっていた。
その廊下を通り、階段をあがって室内に入り、リビングを横切って、直接そ
の隣の部屋へと、誰かが移動していった事を物語るように、その処々に
“ポツンポツン”と衣類が落ちていた。

まるで、“みちしるべ”の如く。

それらは、デニムのアウターに始まり、黒いロング・スリーブのカットソー、
スキニ―なジーンズ、ソックスと続き、ドアが開いたままになったリビング
の隣の部屋の入口には、ライトブルーのブラジャーが落ちていた。

入口にブラジャーが落ちているその部屋は、そのスペースの大半を中央
に、入口の方を足側にして置かれた大きいベッドが占めていた。
クイーン・サイズ程の大きさのベッドは、ヘッド・ボードも周囲を囲っている
部分もまっ白で、その上に掛けられているブランケットも、その下に見え
ているシーツも、白いものだった。
ベッドが置かれたその部屋は、壁面も天井も、白いクロスが貼られていて、
その全体が真っ白い色で統一されていた。
ベッドの横側となる面は、その一面が窓となっていたが、その窓に掛けら
れたカーテンも白いレースの物となっていた。
そのレースのカーテン越しに差し込む日差しが、部屋の中をよりいっそう
白く感じさせていた。
部屋の中にあって白ではないのは、ベッドの上に見えている栗色をした
長い髪の毛と、白いブランケットから覗いている背中と脚だけだった。
正確に言うと、その背中も脚も肌の色はとても白く、完全に白ではないの
はブランケットとシーツの間に少しだけ覗いて見えるライトブルーのショー
ツと、パール系のピンクに彩られた足の爪だけだった。

ベッドには、ひとりの女性が横たわっていた。
女性は、部屋の入口とは反対側の、窓がある方を向いていた。
静かな、アロマ・キャンドルの残り香が僅かに漂う真っ白い部屋の中に、
その女性がたてる寝息だけが、かすかに聞こえていた。
そんな静かな部屋の中に、ひと際目立つ音が響きだした。
音は、リビングの方から響いていた。

携帯電話の着信音。

それは、生成の綿のような布で出来た2人掛けのソファの上に、無造作
に転がったパール・ホワイトの携帯電話から響く着信音だった。
その音に気付いたのか、ベッドの上の女性が「うぅぅん・・」と、声を漏らし
ながらブランケットの中で身じろぎをした。
着信音は、6回程で鳴りやんだ。
が、しばらくして再び携帯電話が鳴りだしだ。
再び鳴りだした着信音は、今度は3回だけ鳴るとフッと止まった。
再び鳴った着信音が止み、部屋の中に静かな空気が戻った。
しかし、ベッドの上の女性は、2回目の着信音が鳴り止んでから程なく、
ゆっくりと上体を起こした。
ブランケットをかぶったまま上体を起こした女性は、まだ目をつぶって
いた。

女性は一時、同じ姿勢のままでいた。
それから、ゆっくりとその目を開いた。
その表情には、前日のままと思われる化粧がそのまま残されているよう
で、眉も目元もきれいに仕上げられていた。
窓から差し込む明るい日差しに、アイ・メイクを施したままの目を細めな
がら、レースのカーテン越しに外へと目を向けた。
表には、この上ない快晴の空が見えていた。
すると女性は、おもむろにブランケットをどかし、身体を窓の方へと向け
ると、ベッドから下りて立ちあがった。
女性は、そのままレースのカーテンと窓を開け、ベランダへと出た。
スリッパも履かず、身に着けているのはライトブルーのショーツだけの
姿のまま、女性はベランダに立っていた。
ベランダからは、正面に広がる公園と、その公園を彩る樹々を中心とし
た、5階の高さから望む街なみが見えていた。
公園のエリアには、運動用のグランドもあり、その隣にはさらに小学校
の施設があった。
その景色に向いながら、女性は両手の指を頭の上で組みながら挙げつ
つ、大きく身体を伸ばした。
女性は、身体を伸ばし終えてからもしばらく、そこに立っていた。
両手を腰に当て、脚も背筋もまっすぐ伸ばし、顔を太陽に近い空へと向
けて、女性は立っていた。
その表情には、心地良さそうな笑みがうっすらと浮かんでいた。

それからしばらくして、女性はベッドのある部屋へと戻った。

ベランダから戻った女性は、再びそのままベッドの上に横たわった。

身体に触れる、白いシーツのぬくもりが、女性の瞼をふたたび下してい
った。
瞼を閉じた女性は、とても柔らかい表情をしていた。




Story & Photo by 陳 笈



 ――――――――― ~ STORY CLIP ~ とは、――――――――
 ありふれた日常の中からワン・シーンを切り取って、ちょっとした
 短いストーリーにしたような、そんな作品です。
 単なる日常の中のワン・シーンですので、登場人物の名前も年齢も、
 設定されていません。
 そんな風景を描いた連作が ~ STORY CLIP ~ なのです。
 それぞれの物語は、つながっているようでもあり、全く別なお話の
 ようでもあります。
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by endow2004jp | 2009-03-21 10:56 | ~ STORY CLIP ~

トランスメディア提供アイコン01~ STORY CLIP ~ Part 1 “雨の香り”



――――― 新シリーズ ~ STORY CLIP ~ スタート!! ――――――

 ――――――――― ~ STORY CLIP ~ とは、――――――――
 ありふれた日常の中からワン・シーンを切り取って、ちょっとした
 短いストーリーにしたような、そんな作品です。
 単なる日常の中のワン・シーンですので、登場人物の名前も年齢も、
 設定されていません。
 そんな風景を描いた連作が ~ STORY CLIP ~ なのです。
 それぞれの物語は、つながっているようでもあり、全く別なお話の
 ようでもあります。

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~ STORY CLIP ~          Part 1


“雨の香り”


重く濁ったような色をしていた・・・

陽の明りも、青いはずの空も、そのどちらもが、筆洗の容器に入れられた
新しい水に、そこに初めて入れられた筆を中心に広がってゆく絵の具の色 
のように、瞬く間に重い色をした雲に覆われ、隠されていた。

ほんの30分程の間に、それまでキレイに晴れていた空は、濃い灰色の空
へと、その表情を急激に変えていた。
その空が、堪えきれずに大粒の涙をばら撒き始めたのは、ほんの5分程前
の事だった。
重たく濁った色をした空が撒き散らす大粒の涙は、瞬く間にアスファルトの
路面を黒々とその色を濃くさせ、街並み全体を濡らしていった。
傘を持たない人たちが、不意の雨を避けるように小走りに移動していく。

その男性も、そんな人たちの中にいた。
ただし、その男性だけは、ごく普通にそこを歩いていた。
雨を避けようともしていなかったし、小走りで移動したりするわけでもなか
った。
空気の中に、降り出して間もない雨と、その雨によって立ちのぼらされた
埃とが入り混じった、独特の匂いが感じられた。
男性は、そんな事を想いながら、ただそこを歩いていた。
往復4車線の大きな通り沿いの歩道。
歩道に面して、様々な店が並んでいる。
通りの先には、鉄道の駅の建物が見えていた。
雨の中を、そのまま駅の方へと歩いた男性は、雨が降り出した今は客が
誰もいなくなっていた、カフェのオープン・スペースを見つけ、そこへと入
った。
店の入口の上から、ひさしのように大きくせり出したテントの下にできた
そのオープン・スペースには、小さな丸いテーブルと椅子が二脚ずつ、2
組置かれていた。
そこには今、誰もいなかったが、テントのおかげで雨を避ける事が出来た。
男性は、そのスペースで濡れた服と髪を、ハンカチでぬぐった。
それから、カフェの店内をウインドウ越しに見た。
店内は、それほど混んでいないのが確認できた。
男性は、別段コーヒーを飲むつもりではなかったが、雨から逃れたついで
に、その店へ寄っていく事にした。
男性が店内へ入ろうと店の入口へ向かおうとした、ちょうどその時、一人
の女性が男性のすぐ側に駆け込んで来た。

雨の中を走って来たのだろう、その女性は髪の毛も服装も、はっきりと分
かる程に、かなり濡れてしまっていた。
男性とぶつからんばかりの勢いでテントの下に飛び込んで来た女性は、
「あ、ご、ごめんなさい」と、男性に謝った。
「あ、いや」とだけ、謝られたその男性は答えた。
「ホントに、ごめんなさい。 この雨の中を走ってきたんで、ぜんぜん前
を見てなくて」
「いや。 気にしないでください。 別に、ぶつかったワケじゃないし」
「本当に、ごめんなさい」
その女性は、もう一度そう言い男性に向けて頭を下げると、自分が雨で
濡れてしまっている事を思い出したのか、慌てたようにバッグからハンド・
タオル取り出して髪と服をぬぐいはじめた。
その様子を見るともなく、その男性は見ていた。
「あの・・・」男性は、その女性に話かけた。
その声に、下を向いて服を拭いていた女性が顔を上げた。
女性は表情だけで、目の前にいる男性に“何か?”と、問いかけていた。
男性は、女性のその表情に対して、人差し指でカフェの店内を示しなが
ら、こう答えた。
「あの、もし良かったら、中でコーヒーでもいかが、ですか?」
女性は、男性の方に顔を向けたまま、一瞬その全身の動きを止まらせた。
そんな女性の反応に男性が、
「あぁ、ここで雨宿りだけしてるのも、なんだから・・・」と、続けた。
すると女性は、その表情にうっすらと笑みを浮かべ、
「そうですね」と、答えた。
女性は、自分のその答えに頷いている男性に向けて、今度ははっきりと
微笑んでみせると、こう言った。
「はじめてです」
今度は男性が、“何が?”と表情で問いかけると、女性は、
「こんな感じで、男性に誘われたのは、はじめてです」と、言った。
「こんな感じ?」
「ええ。 “コーヒーでもいかがですか?”みたいな、お誘い」
女性のその言葉に、その表情に明るい笑顔を浮かべた男性は、
「僕も、はじめてです。 こんな風に誘ったのは」と言い、
「ちょっとナンパっぽかった、かな?」と、続けた。
「大丈夫ですよ。 ナンパって感じではなかったです」
女性は明るい笑顔で、そう答えた。
「よかった」
男性は、そう言って胸を撫で下ろす仕草をしておどけてみせた。

それから、男性はハンカチを、女性はハンド・タオルを、それぞれ手にし
たまま店の入口へと向かった。

店に入る直前に男性は、突然に降った雨の独特の匂いをあらためて感
じていた。

“何処か懐かしい感じのする匂いだ・・”

男性は、カフェの店内へ入りながら、そう思っていた。



Story & Photo by 陳 笈


~ 筆者より ~
この ~ STORY CLIP ~ というシリーズでは、私の想像の中のシーンを
断片的に切り取ったような作品を書いていこうと思っています。
ご覧いただいたように、ショート・ストーリーとさえ言えないような、さ
ながらメモ書きのような短い文章ですので、~ STORY CLIP ~ という
シリーズ・タイトルとしました。
登場人物やシーン全体のディティールに関しての細かい設定は、いっさい
施していませんので、その辺は読んでいただいた方にイメージしていただ
ければ、と思っています。
不定期な掲載となるとは思いますが、読んでいただければ幸いです。
                              ― 陳 笈 ―




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by endow2004jp | 2009-03-15 11:30 | ~ STORY CLIP ~